ロードバイクの世界で速く、効率的に走るためには「パワーゾーン」という概念を理解することが不可欠です。経験豊富なサイクリストの会話の中で「L4で走った」「SSTトレーニングをしている」といった言葉を耳にしたことはありませんか?これらはすべてパワーゾーンに関連する用語です。
パワーゾーンとは、あなたのFTP(Functional Threshold Power:1時間維持できる最大パワー)を基準にして設定された7段階の運動強度区分のことです。かつては高価で一部のプロや上級者しか利用できなかったパワーメーターも、近年では技術の進歩により比較的手頃な価格で入手できるようになりました。これによって、一般のサイクリストもデータに基づいた科学的なトレーニングが可能になっています。
パワーゾーンを理解して活用することで、単に「きつい」「楽」といった感覚的なトレーニングから脱却し、目的に応じた効率的なトレーニングが可能になります。ヒルクライムで強くなりたいのか、長距離エンデューロで持久力をつけたいのか、それとも短距離のクリテリウムで爆発的なパワーを発揮したいのか—それぞれの目標に合わせて最適なトレーニング方法が変わってくるのです。
この記事では、パワーゾーンの基本的な概念から各ゾーンの特徴、測定方法、そして効果的なトレーニング方法まで、初心者からベテランまで役立つ情報をQ&A形式でお届けします。科学的なアプローチでトレーニングの質を高め、あなたのサイクリングパフォーマンスを次のレベルへ引き上げましょう。

パワーゾーンとは何か?初心者向けの基本解説
パワーゾーンとは、サイクリストのパフォーマンスを最大化するために運動強度を7段階に分類したシステムです。このシステムは、心拍数だけでは測定しきれない運動強度を、ワット数という客観的な数値で可視化します。
パワーゾーンの基準となるのが「FTP(Functional Threshold Power)」です。FTPとは、理論上1時間持続できる最大のパワー出力値のことで、個人のパフォーマンスレベルを示す重要な指標となります。例えば、あなたのFTPが200ワットであれば、それを基準に各ゾーンの範囲が決まります。
なぜパワーゾーンが重要なのか?
パワーゾーンを理解する最大のメリットは、トレーニングの効率化です。ただやみくもに「きつい」トレーニングをするのではなく、目的に応じた最適な強度でトレーニングすることで、以下のような利点があります:
- 効率的な体力向上: 各ゾーンは体の異なるエネルギーシステムを刺激するため、目的に合わせたトレーニングが可能
- オーバートレーニング防止: 適切な強度管理により、疲労蓄積を防止
- 進捗の可視化: 数値化されることで、トレーニング効果を客観的に評価できる
- 効果的なレース戦略: レース中のエネルギー配分が最適化できる
7つのパワーゾーン概要
パワーゾーンは通常、L1(最も軽い)からL7(最も強い)までの7段階に分類されます:
- L1(Active Recovery/回復走): FTPの55%以下。非常に軽い負荷で、回復のための走行。
- L2(Endurance/耐久走): FTPの56~75%。長時間持続可能な基礎持久力トレーニング。
- L3(Tempo/テンポ走): FTPの76~90%。やや強度が上がり、集中が必要な領域。
- L4(Lactate Threshold/乳酸閾値): FTPの91~105%。乳酸がたまり始めるギリギリのライン。
- L5(VO2Max): FTPの106~120%。最大酸素摂取量を高めるための高強度トレーニング。
- L6(Anaerobic Capacity/無酸素運動容量): FTPの121~150%。短時間の無酸素パワー向上。
- L7(Neuromuscular Power/神経筋パワー): FTPの151%以上。スプリントなどの爆発的パワー。
パワーゾーントレーニングを始めるには
パワーゾーントレーニングを始めるためには、まずパワーメーターが必要です。ペダルやクランク、ハブなど様々なタイプがありますが、初心者であれば比較的手頃なペダル型やスマートトレーナーから始めるのも良いでしょう。
次に自分のFTPを測定します(詳細は後述)。FTPが分かれば、トレーニングアプリケーションや専用サイクルコンピューターを使って、リアルタイムで自分がどのゾーンで走っているかを確認しながらトレーニングすることができます。
初心者の場合は、まずL2(耐久走)やL3(テンポ走)を中心に基礎体力を養うことが重要です。高強度のトレーニングに飛びつく前に、まずは長く走れる体を作ることを優先しましょう。
各パワーゾーン(L1~L7)の特徴と体への効果は?
各パワーゾーンには独自の特徴があり、異なる生理学的効果をもたらします。それぞれのゾーンについて詳しく見ていきましょう。
L1(回復走/アクティブリカバリー)- FTPの55%以下
特徴:
- 非常に軽い負荷で、疲れを感じることはほとんどない
- 余裕があるため、会話をしながら、あるいは動画などを見ながら走行可能
- どこまでも走れる感じがする
体への効果:
- 血流促進による筋肉の回復
- 疲労物質の排出
- 神経系の回復
実践例:
- ハードトレーニングや長距離ライド翌日の回復走
- ウォームアップやクールダウン
- 週1-2回、30-60分程度
L1は「運動していないよりはマシ」程度の強度で、本格的なトレーニングというよりは回復を促進するためのものです。疲労が蓄積している時でも無理なく取り組める強度です。
L2(耐久走)- FTPの56~75%
特徴:
- 余裕はあるが、徐々に運動していることを感じる強度
- 長時間続けると少しずつ疲労感が蓄積していく
- 1時間以上のライドでも楽に続けられる
体への効果:
- 脂肪燃焼効率の向上
- 毛細血管の発達
- ミトコンドリアの増加
- 心肺機能の向上
実践例:
- 週末の長距離ライド(2-6時間)
- 基礎体力向上のための基本トレーニング
- サイクリング初心者の基本トレーニング
L2は効率的な脂肪燃焼と基礎持久力の向上に非常に効果的なゾーンで、長距離サイクリストにとって最も重要なトレーニングゾーンとも言えます。特に初心者は、まずこのゾーンで十分な時間を積み重ねることが重要です。
L3(テンポ走)- FTPの76~90%
特徴:
- 集中すれば1時間程度は持続可能
- 会話はできるが、短い文章になりがち
- 明らかに運動感を感じるレベル
体への効果:
- 乳酸耐性の向上
- 筋持久力の向上
- 糖質と脂肪の両方をエネルギー源として使用する能力の向上
実践例:
- 1-3時間のテンポライド
- グループライドでの平坦区間
- ヒルクライムの準備段階
L3はトレーニング効果と持続可能時間のバランスが取れたゾーンで、「スイートスポットトレーニング」(SST、FTPの88-94%)も含まれます。このゾーンでのトレーニングは時間効率が高く、多くのサイクリストに推奨されています。
L4(乳酸閾値)- FTPの91~105%
特徴:
- かなりの集中力が必要
- 理論上は1時間持続可能だが、実際には20-40分が限界のことが多い
- 動画を見ながらなど、他のことをする余裕はない
体への効果:
- 乳酸閾値の向上
- 心肺機能の大幅な向上
- 持久力の向上
- FTPの向上
実践例:
- 20分間のFTPテスト
- 8-20分間のインターバルトレーニング
- タイムトライアルレース
- ヒルクライムレース
L4は乳酸閾値を向上させる最も効果的なゾーンで、FTPを上げたい場合に重点的に取り組むべきゾーンです。ただし、高強度のため回復にも時間がかかります。
L5(VO2Max)- FTPの106~120%
特徴:
- 非常に高強度で3-5分が限界
- 酸素供給が間に合わず、呼吸がかなり苦しくなる
- 陸上競技の1500m走のような感覚
体への効果:
- 最大酸素摂取量(VO2Max)の向上
- 心臓のストローク量増加
- 高強度での持久力向上
実践例:
- 3-5分のハードインターバル
- ヒルリピート
- クリテリウムでのアタック
L5は心肺機能を最大限に高めるためのゾーンで、短時間でも大きなトレーニング効果が得られます。週に1-2回、十分な回復期間を設けて行うことが理想的です。
L6(無酸素運動容量)- FTPの121~150%
特徴:
- 極めて高強度で、30秒-2分が限界
- 筋肉内のグリコーゲンを急速に消費
- 陸上競技の400m走に相当する苦しさ
体への効果:
- 無酸素エネルギー供給システムの向上
- 筋肉内の乳酸緩衝能力の向上
- 高強度スプリント能力の向上
実践例:
- 30秒-1分の全力インターバル
- スプリントトレーニング
- クリテリウムなどの瞬発力が必要なレース
L6はスプリントや短いヒルクライムでの爆発的なパワーを向上させるためのゾーンです。クリテリウムなどの短距離レースに効果的ですが、回復に時間がかかるため、週に1回程度に留めるべきです。
L7(神経筋パワー)- FTPの151%以上
特徴:
- 最大瞬発力を発揮するゾーンで、5-15秒が限界
- 筋肉内のATPを主なエネルギー源とする
- スプリントやキックのような爆発的な動き
体への効果:
- 最大筋力の向上
- 神経筋接続の改善
- 筋線維の動員率向上
実践例:
- 全力スプリント
- スタート加速練習
- パワーリフティング
L7は純粋な瞬発力を鍛えるゾーンで、スプリンターにとって特に重要です。短時間でも筋肉への負荷が非常に高いため、十分なウォームアップと回復が必要です。
各ゾーンはそれぞれ異なるエネルギーシステムとスキルを鍛えるため、あなたの目標に応じて適切なゾーンでのトレーニングを組み合わせることが重要です。一般的には、L2を基礎として多くの時間を費やし、目標に応じてL3~L5のトレーニングを適切に組み込むことが効果的です。
自分のFTPを正確に測定する方法とは?
パワーゾーントレーニングを始めるためには、まず自分のFTP(Functional Threshold Power)を正確に知る必要があります。FTPが基準となって各パワーゾーンが設定されるからです。ここでは、信頼性の高いFTP測定方法をいくつか紹介します。
1. 20分間テスト法
最も一般的なFTP測定方法で、比較的短時間で実施できるのが特徴です。
準備:
- パワーメーターを装備したバイク
- できれば平坦でトラフィックの少ない道路かトレーナー
- 十分な水分と栄養
手順:
- 20分間のウォームアップ(軽いペダリングから始め、徐々に強度を上げる)
- 3-5分間の高強度インターバルを2-3回実施(回復時間を含む)
- 5分間の軽いペダリングで回復
- 20分間の全力走行(ペースを均等に保ち、最後まで持続できるように)
- クールダウン(10-15分の軽いペダリング)
計算方法: 20分間テストで得られた平均パワーに0.95を掛けた値がFTPの推定値です。
FTP = 20分間テストの平均パワー × 0.95
例えば、20分テストで平均250ワットを記録した場合、FTPは250 × 0.95 = 237.5ワットと推定されます。
2. ランプテスト法
短時間で済み、特に初心者にとっては実施しやすいテスト方法です。
準備:
- スマートトレーナーとトレーニングアプリ(ZwiftやTrainerRoadなど)
- 十分な水分
手順:
- 10分間の軽いウォームアップ
- パワーが1分ごとに徐々に上がるランププロトコル(例:100ワットから始めて1分ごとに20ワット増加)
- 限界に達するまで継続
- クールダウン
計算方法: 多くのアプリケーションは、テスト結果から自動的にFTPを計算してくれます。一般的には、テスト中の最大平均パワー(MAP)の75%程度がFTPと推定されます。
3. 実際の1時間テスト(ゴールドスタンダード)
最も正確なFTP測定法ですが、身体的・精神的に非常に厳しいテストです。
準備:
- パワーメーターを装備したバイク
- 平坦なコースまたはトレーナー
- 十分な水分と栄養
- 精神的な準備(1時間の高強度運動に耐える)
手順:
- 20-30分の十分なウォームアップ
- 60分間の最大持続可能ペースで走行
- 十分なクールダウン
計算方法: 60分間の平均パワーがそのままFTPとなります。補正係数は不要です。
測定時の注意点
- コンディションを整える: 測定前日は軽い運動にとどめ、十分な睡眠と栄養を取りましょう。
- 定期的な再測定: FTPは定期的(6-8週間ごと)に再測定することで、トレーニング効果を確認できます。
- 一貫性を保つ: 同じ測定方法、同じ条件(時間帯、食事のタイミングなど)で測定すると比較しやすくなります。
- 現実的な値を使う: 測定値が高すぎると日常のトレーニングが過酷になり、低すぎるとトレーニング効果が薄れます。
FTP測定の代替方法
直接的なFTP測定が難しい場合は、以下の方法で推定することも可能です:
- 最近のレース結果からの推定: 特に20-60分程度のタイムトライアルやヒルクライムのデータ
- 8分間テスト: 8分間の全力走行の平均パワー × 0.9でFTPを推定
- ライドデータの分析: トレーニングアプリによっては、日常のライドデータからFTPを推定できるものもあります
FTPは絶対的な数値というよりも、トレーニング強度を設定するための基準と考えるといいでしょう。完璧な測定よりも、一貫した方法で定期的に測定し、自分の進歩を追跡することの方が重要です。
レースタイプ別に効果的なパワーゾーントレーニングの組み方
サイクリングには様々なレースタイプがあり、それぞれに求められる身体能力が異なります。ここでは主要なレースタイプ別に、効果的なパワーゾーントレーニングの組み方を解説します。
1. ヒルクライム向けトレーニング
ヒルクライムでは、自分の体重に対して高いパワーを持続的に発揮する能力(パワーウェイト比)が重要です。
必要なパワーゾーン: L3、L4、L5
トレーニング例(週間プラン):
- 月曜日: 休息またはL1回復走(30-60分)
- 火曜日: L4インターバル – 8分×4セット(セット間に4分の回復)
- 水曜日: L2耐久走(60-90分)
- 木曜日: L5ヒルリピート – 3分×6セット(セット間に3分の回復)
- 金曜日: 休息またはL1回復走
- 土曜日: SSTライド(FTPの88-94%)- 2×20分または3×15分
- 日曜日: 実際の丘陵地帯でのL2-L3長距離ライド(2-4時間)
ポイント:
- パワーウェイト比を向上させるため、筋力トレーニングと体重管理も重要
- 実際の登りでのトレーニングを定期的に取り入れる
- L4(FTPゾーン)のトレーニングを重視する
2. クリテリウム向けトレーニング
クリテリウムでは、繰り返される加速と減速に対応するための無酸素パワーと回復能力が重要です。
必要なパワーゾーン: L4、L5、L6、L7
トレーニング例(週間プラン):
- 月曜日: 休息
- 火曜日: L6スプリントインターバル – 30秒×8セット(セット間に3分の完全回復)
- 水曜日: L2-L3耐久走(60-90分)
- 木曜日: L5VO2Maxインターバル – 3分×5セット(セット間に3分の回復)
- 金曜日: L1アクティブリカバリー(45分)
- 土曜日: マイクロバースト – 15秒全力×10セット + 30秒全力×5セット(十分な回復時間)
- 日曜日: L3-L4テンポライド(60-90分)- 途中にシミュレーションアタック
ポイント:
- スプリント能力と高強度からの素早い回復能力を重視
- レース形式のトレーニング(例:1分オン/1分オフ)を取り入れる
- コーナリングやポジショニングなどの技術練習も組み込む
3. エンデューロ(長距離)向けトレーニング
長距離イベントでは、長時間にわたって持続可能なペースを維持する能力と効率的なエネルギー利用が鍵となります。
必要なパワーゾーン: L2、L3、L4
トレーニング例(週間プラン):
- 月曜日: 完全休息
- 火曜日: L3テンポライド(60-90分)
- 水曜日: L2基礎持久走(90-120分)
- 木曜日: SSTインターバル – 2×30分または3×20分
- 金曜日: L1アクティブリカバリー(45分)
- 土曜日: L2-L3長距離ライド(4-6時間)
- 日曜日: L2中距離ライド(2-3時間)- 途中に短いL4セグメント
ポイント:
- 長時間のL2ライドを基本とし、適度なL3、L4のセグメントを組み込む
- 燃料補給の練習も同時に行う(レース中の栄養戦略)
- ペース配分の感覚を養う
4. タイムトライアル向けトレーニング
タイムトライアルでは、乳酸閾値(FTP)を高いレベルで長時間維持する能力が求められます。
必要なパワーゾーン: L3、L4、L5
トレーニング例(週間プラン):
- 月曜日: 休息またはL1回復走
- 火曜日: L4スレショルドインターバル – 2×20分(セット間に10分の回復)
- 水曜日: L2耐久走(90分)
- 木曜日: L5VO2Maxインターバル – 5分×5セット(セット間に5分の回復)
- 金曜日: L1アクティブリカバリー(45分)
- 土曜日: SST – 3×15分、その後TT姿勢での30分間L3ライド
- 日曜日: シミュレーションTT – 予定レース距離の75%をレースペースで
ポイント:
- FTPを高めるためのL4トレーニングを重視
- TTポジションでのトレーニングを定期的に行い、その姿勢に体を慣れさせる
- ペーシングの感覚を養う練習を取り入れる
5. 初心者・一般サイクリスト向けトレーニング
競争よりも楽しみや健康維持を目的としている方向けの基本的なプランです。
必要なパワーゾーン: L1、L2、L3
トレーニング例(週間プラン):
- 月曜日: 休息
- 火曜日: L2ライド(45-60分)
- 水曜日: 休息または別の運動(ウォーキングなど)
- 木曜日: L2-L3ライド(45-60分)- 短い丘を含むコース
- 金曜日: 休息
- 土曜日: L2長めのライド(90-120分)
- 日曜日: リカバリーライドまたは休息
ポイント:
- 無理なく続けられるペースを重視
- 週2-4回のライドで十分な回復時間を確保
- 徐々に走行時間と強度を増やしていく
トレーニング計画作成時の注意点
- 漸進的負荷: トレーニング量と強度は徐々に増やしましょう。一気に高強度トレーニングを増やすとオーバートレーニングや怪我のリスクが高まります。
- ピリオダイゼーション(周期化): 年間を通じて、基礎期、強化期、ピーク期、回復期などのサイクルを設けることで、長期的に効果的なトレーニングが可能になります。
- 回復の重要性: 高強度トレーニング後は十分な回復時間が必要です。回復なくして強化なしと心得ましょう。
- 個人差への配慮: 同じFTPでも、回復能力や得意な強度は個人によって異なります。自分の体の反応を観察し、必要に応じて調整しましょう。
- 一貫性: 派手な高強度トレーニングよりも、継続的なトレーニングの方が長期的には効果的です。無理のないスケジュールを心がけましょう。
目標とするレースやイベントに向けて、自分の強みと弱みを分析し、上記のガイドラインを参考にしながら自分に合ったトレーニング計画を立てましょう。そして実行中も体の反応や進捗を見ながら柔軟に調整していくことが成功への鍵となります。
パワーゾーントレーニングで陥りがちな間違いとその対策
パワーゾーントレーニングは効果的なトレーニング方法ですが、多くのサイクリストが同じような間違いを繰り返しています。ここでは、よくある間違いと、それを避けるための具体的な対策を紹介します。
1. 高強度トレーニングに偏りすぎる
間違い: 多くのサイクリスト、特に初心者は「きつければきついほど効果的」と考え、L4-L6の高強度トレーニングばかりを行う傾向があります。
なぜ問題か:
- 回復が不十分になりオーバートレーニングのリスクが高まる
- 基礎持久力が養われない
- 長期的には燃え尽き症候群やモチベーション低下につながる
対策:
- 80/20ルールの適用: トレーニング時間の約80%はL1-L2の低強度で、残り20%を高強度(L4以上)に充てる
- 週間計画で適切なバランスを取る(高強度日の前後に回復日や低強度日を設ける)
- トレーニング記録アプリを使って、各ゾーンでのトレーニング時間を可視化する
実践例: あるアマチュアサイクリストは、週6日間毎日L4-L5の高強度トレーニングを行い、3ヶ月後に慢性疲労に陥りました。コーチの指導で週のトレーニング構成を変更し、L2を中心とした長時間ライドを週2回、L4-L5の高強度インターバルを週2回、L1の回復走を週1回、完全休養を週1回に変更したところ、6ヶ月後にはFTPが15%向上しました。
2. 正確なFTP設定をしていない
間違い: 不正確なFTP測定や、意図的に高すぎる/低すぎるFTP値を設定してしまう。
なぜ問題か:
- FTPが高すぎると、各ゾーンも高く設定されすぎてしまい、実際にはより高い強度でトレーニングしてしまう
- FTPが低すぎると、トレーニング効果が薄れる
- 正確なゾーン設定ができず、トレーニングの質が低下する
対策:
- 定期的(6-8週間ごと)に正確なFTPテストを実施する
- 自分のプライドを捨て、正直な数値を使用する
- 日々のトレーニングで「感覚」と「数値」のずれがある場合は再測定を検討する
- 調子の良い日のスポット的な高パワーではなく、持続可能なパワーを基準にする
実践例: ある競技者は、友人のFTPが250Wだったため、自分も同じくらい出せるはずと考え、実際のテストをせずに245Wと設定しました。しかし、L3のはずのトレーニングでも非常にきつく感じ、すぐに疲労してしまいました。正確なFTPテストを行ったところ実際は215Wであり、この値に基づいてゾーンを再設定したことで、適切な強度でトレーニングできるようになりました。
3. 「グレーゾーン」でのトレーニングが多い
間違い: L3(テンポ)ゾーンでのトレーニングが多すぎる、いわゆる「グレーゾーントレーニング」に陥る。
なぜ問題か:
- L3は「きつすぎず、楽すぎない」ゾーンのため、多くのサイクリストが自然とこの強度に落ち着く
- L3は低強度(L1-L2)ほど長時間続けられず、高強度(L4-L5)ほどの強い適応刺激も与えられない
- 結果的に、効率の悪いトレーニングになりがち
対策:
- トレーニングの目的を明確にする:持久力向上ならL2、FTP向上ならL4など
- 意図的にL1-L2の低強度か、L4-L5の高強度のどちらかでトレーニングする
- パワーメーターの表示を常に確認し、無意識にL3に入らないよう注意する
- 「SSTトレーニング」(FTPの88-94%、L3上限からL4下限)は例外的に効果的
実践例: 長年サイクリングを楽しんできたあるライダーは、いつも「程よくきつい」と感じるL3強度で走ることが多く、パフォーマンスが停滞していました。コーチングを受けた結果、週のトレーニングを「非常に楽なL2ライド」と「非常にきついL4/L5インターバル」に二極化させました。当初は物足りなさや逆にきつさを感じましたが、3ヶ月後には長年停滞していたFTPが10%向上しました。
4. 回復を軽視している
間違い: 十分な回復時間を取らずに連日ハードトレーニングを行う。
なぜ問題か:
- トレーニング自体は筋肉を破壊する過程で、実際の強化は回復時に起こる
- 適切な回復なしでは、トレーニング効果が最大化されない
- 慢性的な疲労、パフォーマンス低下、モチベーション低下につながる
- 最悪の場合、オーバートレーニング症候群や怪我につながる
対策:
- 高強度トレーニング日の翌日は必ず低強度(L1)か完全休養を入れる
- 週に最低1日は完全休養日を設ける
- 睡眠、栄養、水分補給などの回復要素を重視する
- トレーニング記録に疲労度や睡眠の質も含め、パターンを把握する
- HRV(心拍変動)などの客観的指標も活用して回復状態を評価する
実践例: 熱心なマスターズレーサーのAさんは、週に5日間の高強度トレーニングを行い、「休むと遅くなる」と考えていました。しかし、パフォーマンスは停滞し、常に疲労感がありました。コーチの助言で週3日の質の高いトレーニングと4日の回復/休養に変更したところ、疲労感が減少し、3か月後のレースでは自己ベストを更新しました。
5. 長期的な計画性がない
間違い: その日の気分や体調でトレーニング内容を決め、長期的な計画性がない。
なぜ問題か:
- 体系的な強化ができず、効率が悪い
- トレーニング負荷の管理ができない(突然高負荷になりすぎたり、逆に刺激が足りなかったり)
- 特定のイベントやレースに向けたピーキングが難しい
- モチベーション維持が難しくなる
対策:
- 年間計画(マクロサイクル)を立て、シーズンごとの目標を設定する
- 4-8週間単位の中期計画(メソサイクル)で負荷と回復を計画的に組む
- 週単位の計画(マイクロサイクル)で具体的なトレーニング内容を決める
- 重要なレースやイベントに向けてピーキングの期間を設ける
- トレーニング記録を分析し、定期的に計画を見直す
実践例: 週末のサイクリングを楽しむBさんは、毎回行き当たりばったりでルートや強度を決めていました。しかし、特定のイベントに向けて4ヶ月の計画を立て、徐々に走行距離と強度を上げていくプランを実行したところ、当日は余裕を持ってイベントを完走し、前回より1時間以上速いタイムを記録しました。
まとめ:効果的なパワーゾーントレーニングのために
パワーゾーントレーニングは、科学的根拠に基づいた効果的な方法ですが、正しく活用してこそその恩恵を得られます。上記の間違いを避け、以下のポイントを心がけましょう:
- 基礎を大切に: L1-L2の低強度トレーニングを十分に行い、持久力の土台を固める
- 目的に合ったゾーン選択: 鍛えたい能力に応じて、適切なパワーゾーンでトレーニングする
- 回復を優先: 高強度トレーニングの後は十分な回復時間を確保する
- 定期的なFTP測定: 6-8週間ごとに再測定し、正確なゾーン設定を維持する
- 計画性をもって: 短期・中期・長期の計画を立て、体系的にトレーニングを進める
- 自分の体に耳を傾ける: 数字だけに囚われず、体の感覚も大切にする
- 楽しむ: 最終的には、サイクリングを楽しむことが長続きの秘訣
パワーゾーントレーニングは手段であって目的ではありません。あなた自身のサイクリングライフがより充実し、目標達成につながるよう、この知識を活用してください。
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