ロードバイク愛好家なら一度は耳にしたことがあるフレーズ「軽量化は正義」。車体の軽量化に数万円をかける方もいる一方で、「ライダー自身の体重を落とすほうが効果的」とも言われています。確かに、ロードバイクのパフォーマンスと体重の関係は切っても切れないものです。特にヒルクライムでは、余分な体重がある人ほど大きなハンディを背負っていることになります。
しかし、「痩せれば必ず速くなるのか?」「何キロ減らせばどれくらい速くなるのか?」「筋肉も減ってしまうのでは?」など、多くのサイクリストが疑問を抱えています。私自身も3ヶ月で7kgの減量に成功し、その過程でさまざまな変化を体験しました。
この記事では、体重減少がロードバイクのパフォーマンスに与える影響を科学的な見地と実体験から徹底解説します。単に「痩せれば速くなる」という単純な話ではなく、サイクリストにとって理想的な体重と体組成、効果的な減量方法、そして体重減少によって得られる具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。

痩せると本当にロードバイクの速度は上がるのか?
「体重が減れば自然と速くなる」と考えがちですが、実はそれほど単純ではありません。実際の速度変化は走行環境によって大きく異なります。
平地走行では、体重減少による速度向上の効果は限定的です。2kgの体重減少では、平地での速度は1時間あたり約10秒程度の差にしかなりません。これは体重が速度に直接影響するというよりも、空気抵抗が主な制限要因となるためです。
一方で、登坂時のパフォーマンスは体重によって大きく左右されます。5%の勾配を持つ坂道では、体重10kgの差が必要なパワー出力に約25W近い差をもたらします。具体的には、70kgのライダーと80kgのライダーが同じ速度で登るために必要なパワー出力は、それぞれ204Wと228Wとなり、約12%もの差があります。
体重が減ったことで心拍数が上がりにくくなり、巡航速度の維持や峠がとても楽になり、以前よりも重いギアで走れるようにもなります。結果的にパワーの向上やSTRAVAでのPR更新など、成長を実感できました。
ただし、重要なのは「痩せれば自動的に速くなる」わけではないということです。痩せるだけではロードバイクの巡航速度は速くなりません。ロードバイクのスピードはギアとケイデンスによって決まります。そのため、痩せる前と後で同じギア・ケイデンスで走行していては速度が速くなることはありません。体重の減少によって楽にペダリングが行えるようになった分、ギアもしくはケイデンスを上げないと速度に変化はないのです。
つまり、体重減少そのものが直接スピードを上げるわけではなく、同じ努力でより高いパワー出力が可能になることが本質なのです。特に長い登りや連続したアップダウンのあるコースでは、その差が顕著に現れます。
ロードバイクのパフォーマンス向上に最適な減量方法とは?
サイクリストにとって、単に「痩せる」のではなく「パフォーマンスを維持・向上させながら痩せる」ことが重要です。そのためには、筋肉(特に下半身の筋肉)を極力維持しながら、余分な体脂肪を減らすアプローチが必要です。
適切な減量ペース
プロのトレーナーやスポーツ栄養士は、週に250〜300gの減量ペースを推奨しています。これ以上のペースで減量すると、筋肉量の減少や回復能力の低下を招き、トレーニングの質が落ちる可能性があります。2kgの減量を目指す場合でも、最低8週間ほどの期間をかけるのが理想的です。
これは私自身の経験とも一致しており、3ヶ月かけて7kgの減量(週に約580g)を達成しました。このペースでも若干の筋肉減少は避けられませんでしたが、全体的なパフォーマンスは向上しました。
バランスの取れた栄養摂取
減量中でもトレーニングのパフォーマンスを維持するためには、適切な栄養バランスが欠かせません。特に注意すべきは以下の点です:
- 十分なタンパク質摂取: 筋肉量を維持するため、体重1kgあたり1.6〜2gのタンパク質を摂取する
- トレーニング前後の炭水化物: パフォーマンスを維持するため、トレーニング前後に炭水化物を適切に摂取する
- 無理な糖質制限を避ける: 特に高強度のトレーニング時には十分な糖質が必要
低炭水化物ダイエットは短期的な体重減少には効果的かもしれませんが、高強度トレーニングのパフォーマンスを低下させる可能性があります。研究でも、短時間でハードに走る場合には炭水化物が最適であるという点で一致しています。
トレーニングの組み合わせ
効果的な減量のためには、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることが理想的です:
- LSD (Long Slow Distance): 脂肪燃焼を促進する低〜中強度の長時間ライド
- インターバルトレーニング: 代謝を高め、筋持久力を維持する高強度トレーニング
- 筋力トレーニング: 下半身の筋力維持のための週2〜3回のレジスタンストレーニング
特にLSDは、ミトコンドリア量の増加、毛細血管の増加、脂肪燃焼促進といった体の変化が起き、基本的な有酸素運動能力が向上します。これにより、乳酸が血中に発生するラインを引き上げることができるため、長時間の運動を行いやすい体を作ることができるのです。
体重減少と筋力維持のバランスをどう取るべきか?
サイクリストにとって理想的な体格は、無駄な脂肪がなく、必要な筋肉は維持されている状態です。問題は、減量の過程で筋肉も失われやすいという点にあります。
パワーウェイトレシオの重要性
自転車競技において重要なのは、絶対的なパワーだけでなく、体重あたりのパワー出力(パワーウェイトレシオ)です。体重が減っても発揮できるパワーが比例して減少してしまえば、結局パフォーマンスは変わりません。
理想的なのは、脂肪を減らしながら筋肉量(特にパワーを発揮する下半身の筋肉)を維持することです。これにより、体重あたりのパワー出力が向上し、特に登坂時のパフォーマンスが大きく改善します。
筋肉を維持するための戦略
筋肉量を維持しながら減量するためには、以下の戦略が効果的です:
- 十分なタンパク質摂取: 特に質の高いタンパク質を各食事で摂取する
- 適度なカロリー制限: 極端な制限は避け、1日200〜500kcal程度の赤字に抑える
- 筋力トレーニングの継続: 減量中も筋力トレーニングを継続し、筋肉への刺激を維持する
- 十分な休息: 回復のための休息日を設け、オーバートレーニングを避ける
結論として、体組成計の数値ではやや筋肉が減少したものの、巡航速度の維持やヒルクライムがとても楽になりました。実際にタイムも縮んでいて、STRAVAのセグメントでPRを更新できた区間が複数あります。
体脂肪率の目安
サイクリストにとっての適切な体脂肪率は、性別や競技レベルによって異なります。一般的には:
- プロ男性サイクリスト: 6〜10%
- アマチュア男性サイクリスト: 10〜15%
- プロ女性サイクリスト: 12〜16%
- アマチュア女性サイクリスト: 16〜22%
ただし、過度に低い体脂肪率は健康リスクを高める可能性があるため、一般的なアマチュアサイクリストは健康的な範囲内で減量を目指すべきです。
体重減少がもたらす具体的なメリットとデメリットは?
体重減少がサイクリストにもたらすメリットは多岐にわたりますが、同時にいくつかの潜在的なデメリットも考慮する必要があります。
メリット
- 登坂能力の大幅な向上 坂道では重力に抗う力が必要なため、体重が軽いほど有利です。この画像は僕が3ヶ月間ロードバイクでのダイエットに取り組んだ時の体重の推移で、71.2kgから64.2kg(マイナス7kg)への減量に成功しました。この体重減少により、巡航速度の維持やヒルクライムがとても楽になりました。
- 心拍数の上昇が抑えられる ざっくりですが、ダイエットの前後で巡航速度28~30kmを維持するための心拍数は以下の通りです。ダイエット前:145〜160bpm、ダイエット後:125〜145bpm。サイクリングの時期や気温、食後など、状況によって前後しますが、平均すると上記のような数値になり、より長い時間、快適にサイクリングを楽しめるようになりました。
- 重いギアの使用が可能に 体重が減ったことで、体を動かすために必要な力を軽減できるため、より重いギアを踏めるようになります。重いギアを踏めるようになったことで、体力的にはつらくなりますが、速い巡航速度(32~35km/h前後)で走れるようになりました。
- 身体への負担軽減 サイクリングでのシーンに限らず、体重が減ることでとても体が軽く感じます。これは体を動かすために必要な力が減ることが理由なのですが、関連して日常生活や運動でのエネルギー消費が抑えられます。
- サイクルウェアの見た目改善 僕はどちらかと言うと痩せ型でしたが、サイクルウェアを着た時に、お腹周りの下っ腹が目立つことが悩みでした…ですが、ダイエットに成功したことで、背中のバックポケットに補給食やサイクルポーチを入れてもお腹周りが強調されなくなり、結果的にもっとロードバイクに乗りたい!と思うようになりました。
デメリット
- 筋力低下のリスク 不適切な減量方法や過度な体重減少は、筋肉量の減少を招き、パワー出力の低下につながる可能性があります。特に上半身の筋肉が落ちやすく、長距離ライドでの姿勢維持が難しくなることも。
- 回復力の低下 体脂肪が過度に少ない状態では、免疫機能の低下や回復力の減少が起こり得ます。これはトレーニング効果を最大化する上で障害となります。
- エネルギー不足のリスク 極端な減量や低体脂肪率は、特に長距離ライド中のエネルギー不足を招く可能性があります。しかし、サイクリングでの消費カロリーが減るのはデメリットではなく、その分補給の回数を減らせるため、より長い時間サイクリングを楽しめるようになります(燃費が良い状態)。僕はブルベで長距離を走る機会が多いのですが、後半になると疲弊して食欲がなくなることもあるので、補給の回数を減らせるのは非常に大きなメリットだと感じています。
体重減少のメリットを最大化し、デメリットを最小化するためには、適切なペースでの減量とバランスのとれた栄養摂取が不可欠です。
プロサイクリストに学ぶ効果的な体重管理とトレーニング方法
プロのサイクリストは、レースのシーズンに合わせて体重管理を行い、最適なパフォーマンスを引き出しています。彼らの方法から学べる点は多くあります。
シーズンに合わせた体重管理
プロサイクリストは通常、オフシーズンでは若干体重を増やし、レースシーズンに向けて徐々に絞っていきます。例えば、ツール・ド・フランスなどの主要レース前には最適な体重になるよう調整します。
ドイツの元プロサイクリスト、ヤン・ウルリッヒは冬の間に体重が増えすぎて苦労したことで知られています。これに対し、クリス・フルームは「ツール・ド・フランスの前哨戦として、クリテリウム・デュ・ドーフィネに出場する。筋肉トレーニングでついた、上半身の体重を落とすために数週間で2kgダイエットに成功した」という例もあります。
効果的なトレーニング方法
プロサイクリストは、基礎体力作りのためのLSD(Long Slow Distance)トレーニングと、高強度インターバルトレーニングをバランスよく組み合わせています。
LSDを行うと、ミトコンドリア量の増加、毛細血管の増加、脂肪燃焼促進といった体の変化が起きます。これにより、基本的な有酸素運動能力が向上するのです。
具体的なトレーニング構成としては:
- 週に2〜4回のLSDトレーニング(2〜5時間の低強度ライド)
- 週に2〜3回の高強度インターバルトレーニング
- 筋力維持のための補助トレーニング
このようなバランスのとれたトレーニングにより、持久力と爆発的なパワーの両方を向上させることができます。
栄養とリカバリーの重要性
プロサイクリストは、トレーニングや競技中のパフォーマンスを最大化するため、精密な栄養管理を行っています:
- トレーニング中の栄養: 長時間のライドでは炭水化物と電解質の補給が重要
- リカバリー栄養: トレーニング後30分以内のタンパク質と炭水化物の摂取
- 日常の食事: 質の高いタンパク質、複合炭水化物、健康的な脂質のバランス
特に電解質については、「汗をかくと電解質が失われます。ミネラルレベルが多少低くても、パフォーマンスの低下はあまり感じられません。しかし、低ナトリウム血症は時には致命的な症状を引き起こす危険性があります。そのため、暑い日に1時間以上自転車に乗る場合は、ミネラルを補給しましょう。」と言われています。
体重減少はロードバイクのパフォーマンス向上に大きく貢献しますが、それは単に「痩せれば速くなる」という単純な話ではありません。適切な方法で、筋力を維持しながら余分な体脂肪を減らすことが重要です。そして、痩せたことで得られた利点を活かして、より重いギアを回したり、ケイデンスを上げたりすることで、初めて真の速度向上につながります。
今回はサイクリストの視点で、痩せたことによる効果やメリットを解説してきました。ライド中のパワーが向上した、平坦での巡航速度維持が楽になった、重いギアを回せるようになった、身体への負担が軽減された、サイクルウェアをスマートに着こなせるようになった、という具体的な効果があります。
結果的にパワーの向上やSTRAVAでのPR更新など、成長を実感できましたし、サイクルウェア着用時においても、お腹周りが強調されなくなったため、ダイエットで得られる効果・メリットはとても大きいと感じています。タイムが伸び悩んでいたり、楽しみ方を増やしたいと考えているのであれば、ダイエットに取り組んでみることをおすすめします。とはいえ、ダイエットは短期間で効果が得られるものではないので、少なくとも1~2か月の期間で計画して取り組むようにしてください。
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