近年、ロードバイクのタイヤ幅に関する常識が大きく変わりつつあります。かつては「細いタイヤほど速い」とされていましたが、最新の研究と技術革新により、35cという比較的太いタイヤがロードバイクシーンで注目を集めています。700×35cタイヤは、従来のロードタイヤとグラベルタイヤの中間的な存在として位置づけられ、舗装路から軽いダートまで対応できる万能性を持っています。振動吸収性、グリップ力、そして意外にも速度面でのメリットが科学的に証明され、多くのライダーにとって「良い妥協点」として評価されています。エンデュランスロードバイクを中心に35c対応フレームも増加しており、快適性と実用性を重視する現代のサイクリストにとって、35cタイヤは非常に魅力的な選択肢となっています。

ロードバイクに35cタイヤを装着するメリットとデメリットは?
35cタイヤの主要メリット
ロードバイクに35cタイヤを装着する最大のメリットは、優れた快適性です。タイヤが太くなることでエアボリューム(空気量)が大幅に増加し、路面からの振動を効果的に吸収します。特に33c以上になると、従来のロードバイクとは思えないほどの振動吸収性が得られ、長時間のライドでも疲労を大幅に軽減できます。
グリップ力と安定性の向上も見逃せないメリットです。タイヤ幅が広がることで路面との接地面積が増加し、コーナーでの自信とグリップ感が明らかに向上します。Global Cycling Networkのテストでは、35mmタイヤは26mmよりも高速でコーナーに進入でき、より深いリーンアングルでの走行が可能になったと報告されています。これにより、下りのコーナーや多少の悪路でも安心して走行できます。
耐パンク性能の向上も重要なメリットです。エアボリュームが多いワイドタイヤは衝撃に対する耐性が高く、チューブレスタイヤと組み合わせることで、リム打ちパンクのリスクを大幅に軽減できます。実際の使用例では、オンロード10,000km、オフロード1,000kmの走行で一度もパンクしなかったという報告もあります。
35cタイヤのデメリット
一方で、デメリットも存在します。最も指摘されるのは乗り心地の変化です。35cタイヤは25cのような細いタイヤと比較すると、「もっちり」または「もさっと」とした感覚があり、路面との直接的な「つながり」が若干失われる傾向があります。これは特にピュアなロードレースやヒルクライムにおいて、「速さ」や「アジリティ」を最優先するライダーには物足りなく感じられる可能性があります。
重量とロスの問題も考慮すべき点です。35cタイヤは物理的に重くなるため、漕ぎ出しが重く感じられることがあります。ただし、これはタイヤの構造(ケーシングのしなやかさなど)によって大きく左右され、高性能なタイヤを選ぶことで軽減可能です。また、30km/hを超えると安定感が増し、重さを感じにくくなるという意見もあります。
700×35cタイヤは本当に速いの?従来の細いタイヤとの速度比較
新しい速度理論の登場
かつてのロードバイク界では「細いタイヤを高圧で」が速さの常識でしたが、この理論はきれいなトラック競技にのみ適用されるものであり、実際の舗装路では当てはまらないことが最新の研究で明らかになっています。アスファルトのような凹凸のある路面では、細く高圧なタイヤは路面の振動を拾って跳ねてしまい、これが大きなエネルギーロスにつながります。
レネハース(Rene Herse)の詳細なテストでは、極端な状況下で最大290ワットものエネルギーロスが振動によって発生することが示されており、振動を減らすことが速度向上に大きく寄与すると結論づけています。特に印象的なのは、パリ・ルーベのような凹凸の激しい路面では、40mmタイヤにすることで75ワットもの省エネ効果が見られたという報告です。
35cタイヤの実際の速度性能
35cタイヤは、この「ワイドタイヤが速い」という新しい常識の恩恵を受けます。ワイドタイヤはより低い空気圧で使用できるため、振動吸収性が高まり、結果として転がり抵抗が低減され、実際の走行速度が向上するとされています。
具体的な製品例として、ENVEのSESロードタイヤの35cモデルは、29cモデルと遜色ない軽さで走行できると評価されています。また、PanaracerのGravelKing SK 35cを高圧(前3bar/後3.5bar)で使用したテストでは、漕ぎ出しは重く感じるものの、30km/hを超えると安定感が増し、伸びを感じて重さを感じなくなるという結果が得られています。
速度性能を決める要因
重要なのは、タイヤの速度性能は単に太さだけでなく、タイヤの構造が大きく影響するということです。サプル(しなやかな)なケーシングを持つ高性能タイヤは、硬いサイドウォールを持つタイヤよりも速く、快適に感じられます。レネハースのテストでは、55mm幅のタイヤでもサプルなケーシングであれば速度低下がないことが確認されており、単に太いだけでなく、高性能なタイヤを選ぶことが重要です。
ロードバイクで35cタイヤを選ぶべき人とおすすめの使用シーン
最適なライダープロファイル
35cタイヤは、快適性と実用性を重視するライダーに特におすすめです。まず、初心者ライダーにとって35cタイヤは理想的な選択肢です。安定性とクッション性が高く、多少の悪路でも安心して乗れるため、ロードバイクに慣れていない段階でも恐怖心を感じることなく楽しめます。また、段差でハンドルが取られにくくなるため、街中の走行でも安心感が増します。
ロングライドやエンデュランス志向のライダーも35cタイヤの恩恵を大きく受けます。振動吸収性が高いため、長時間のライドでも身体への負担が少なく、疲労を大幅に軽減できます。Merida Scultura Endurance 6000のように、35cまで対応するエンデュランスロードバイクも登場しており、快適性を重視したロングライドに最適な環境が整いつつあります。
通勤・通学ライダーにとっても35cタイヤは実用的な選択です。段差や荒れた路面が多い都市部での走行において、振動吸収性と安定性が高く、快適な通勤・通学をサポートします。特に耐パンク性の高いモデルを選べば、日常使いでのトラブルも大幅に減らせます。
おすすめの使用シーン
オールロード/ミックスコンディションライドは35cタイヤの最も得意とする分野です。舗装路から軽いグラベル、ダート、未舗装路まで、様々な路面を一本のタイヤで走破したいライダーに最適です。本格的なオフロード走行には物足りない場合もありますが、一般的なダート道や砂利道であれば十分対応可能で、「妥協点」または「良い中間点」として高く評価されています。
グラベルロードのオンロード向け使用も有効な活用法です。GravelKing SKのように、グラベルロードバイクに装着して舗装路メインで使う場合に、軽快さと快適性を両立できます。グラベルバイクの多用途性を活かしつつ、日常的な舗装路走行でも快適性を確保できます。
避けるべき用途
一方で、35cタイヤが適さない用途も明確に存在します。ピュアなロードレースやヒルクライムでは、「少しもさっとする」「登坂が苦手」と感じる場合があります。このような「速さ」や「アジリティ」を最優先する用途では、28cや30c、あるいはさらに細いタイヤが選ばれることが多く、35cタイヤの特性とは合致しません。
35cタイヤをロードバイクに装着する際の注意点と互換性チェック
フレームクリアランスの確認
35cタイヤをロードバイクに装着する前に、最も重要な確認事項はフレームクリアランスです。日本産業規格(JIS)D 9304:2019では、フレームとタイヤのクリアランスは4mm以上と規定されています。古いロードバイクでは23cタイヤに合わせて設計されていることが多く、35cタイヤを装着するとフレームやブレーキに干渉する可能性があります。
現代のロードバイクでも、モデルによって対応可能な最大タイヤ幅は大きく異なります。例えば、SPECIALIZED Tarmac SL8は32cまで、Roubaix SL8は38c(40mm)まで対応しています。TIMEの新作Alpe d’Huez Xは32〜35cタイヤで最高の性能を発揮するように設計されており、最大38cまで対応。Merida Scultura Endurance 6000も35cまで対応しています。購入前には必ずメーカーの仕様書を確認することが重要です。
リム幅との適合性
タイヤの性能を最大限に発揮するためには、適切なリム幅に装着することが不可欠です。35cタイヤの場合、内幅20mm以上のワイドリムとの組み合わせが推奨されることが多く、例えばPanaracer GravelKing SK 35cは、内幅23mmのワイドリムWTB STPi23に装着することで相性が良いとされています。
ワイドリムには複数のメリットがあります。タイヤとリムの段差を減らして空気抵抗を低減し、タイヤの変形を抑える効果も期待できます。古い狭いリムに35cタイヤを装着すると、タイヤが丸くなりすぎて本来の性能を発揮できない可能性があります。
空気圧の適切な管理
35cタイヤの性能を最大限に引き出すためには、適切な空気圧の管理が極めて重要です。空気圧は、ライダーの体重、タイヤの銘柄と断面幅、使用目的、そして走行する路面の種類に応じて調整する必要があります。
ミシュランの推奨では、35mmのフック付きリムタイヤの場合、体重50kg未満で3.9 BAR、100kg超で4.5 BARを推奨しています(製品によって異なる)。フックレスリムの場合はさらに低い空気圧が推奨されます。低すぎる空気圧はタイヤの剛性感を損ない、高すぎる空気圧は乗り心地を硬くしてグリップが悪くなる可能性があります。
適正空気圧を見つけるためには、推奨範囲の中間から始めて、0.2~0.3 BARずつ調整してベストな設定を探すことが推奨されています。また、タイヤの空気圧は時間とともに自然に抜けるため、ライド前には毎回チェックすることが重要です。
2025年最新!ロードバイク用35cタイヤのおすすめモデルと選び方
最新の注目モデル
2025年現在、35cタイヤの選択肢は大幅に拡充されており、各メーカーから高性能なモデルが続々と登場しています。ENVE SES ROAD TIRE 35cは、2024年6月に日本に導入された軽量チューブレスロードタイヤで、ロードタイヤでありながら快適性とスピードを両立することを謳っています。MTB好きとロード好きの両方のスタッフから高い評価を得ており、29cモデルと遜色ない軽さで走行できる優れた性能を持っています。
Panaracer GravelKingシリーズは35c市場の定番として確固たる地位を築いています。SK(セミノブ)、SS(スリックサイド)、X1(よりアグレッシブなノブ)といった多様なトレッドパターンが提供されており、用途に応じて選択可能です。特にGravelKing SK 35cは、センターとサイドのノブが控えめなパターンで、舗装路と未舗装路の両方でバランスの取れた性能を発揮します。長期使用での耐久性も高く評価されています。
Specialized Mondo 2Bliss Ready 35cは、肉厚でグリップ力が高く、耐久性重視ながら速度を落とさない走りが特徴です。また、PIRELLI CINTURATO VELO TLR 700×35、Continental Grand Prix Urban 35c、Schwalbe G One all-roundsなども、それぞれ異なる特性を持つ35cの選択肢として注目されています。
選び方のポイント
35cタイヤを選ぶ際の最重要ポイントは、使用目的とトレッドパターンの選択です。完全な舗装路メインであればスリックタイヤ(溝なし)が転がり抵抗の面で有利です。一方、軽いグラベルや未舗装路も走る可能性があるなら、GravelKing SKのようにセンターはスリックでサイドにノブがあるパターンが理想的です。
ケーシングの品質も性能に大きく影響します。サプル(しなやかな)なケーシングを持つ高性能タイヤは、硬いサイドウォールを持つタイヤよりも速く、快適に感じられます。価格は高くなりますが、性能を重視するなら高品質なケーシングを持つモデルを選ぶことが推奨されます。
チューブレス対応の有無も重要な選択基準です。チューブレスタイヤはパンクリスクの軽減、より低い空気圧での使用可能、シーラント剤による小さな穴の自動修復機能など、多くのメリットを提供します。初期設定は若干複雑ですが、長期的には大きな恩恵を受けられます。
最後に、カラーバリエーションも考慮要素の一つです。GravelKingシリーズをはじめ、多くのメーカーが新色を展開しており、フレームデザインとのコーディネートも楽しめるようになっています。機能性を確保した上で、見た目の好みも考慮してモデル選択することで、より愛着の持てるバイクに仕上げることができます。
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