CEEPO PEAKのフレーム重量690gを実現した革新技術とは

ロードバイク

CEEPO PEAKのフレーム重量は、Mサイズ未塗装時で690gです。この驚異的な軽さは、トライアスロンバイクのパイオニアであるCEEPO(シーポ)が2025年に発表した「スーパーロードバイク」において、「完全一体モールド製法」と東レ製最高峰カーボン「M40X」の採用によって実現されました。ディスクブレーキを搭載したエアロロードバイクとしては異例の軽さであり、同社のエアロロードStingerと比較してフレーム単体で82g、システム全体では約141gもの軽量化に成功しています。本記事では、CEEPO PEAKがなぜ690gという軽量化を達成できたのか、その革新的な製造技術から設計思想、実際の走行性能に至るまで、詳しく解説していきます。

CEEPO PEAKとは何か:スーパーロードバイクの定義

CEEPO PEAKは、CEEPOが「スーパーロードバイク」と定義する新しいカテゴリーのロードバイクです。従来のロードバイク市場には「クライミングバイク」と「エアロロード」という二つの大きなカテゴリーが存在してきました。クライミングバイクは軽さを追求し、エアロロードは空気抵抗の削減を優先するという具合に、それぞれ異なる方向性を持っていました。しかし、CEEPO PEAKはこの二項対立を乗り越え、軽量性とエアロダイナミクスの両方を極限まで追求しています。

具体的な性能を見ると、エアロロードであるStingerと比較して空気抵抗を大幅に削減しながら、純粋なクライミングフレームに匹敵する690gという重量を実現しています。これは「妥協を拒絶し、表彰台を狙う」という極めてアグレッシブなコンセプトに基づいた設計の成果です。従来であれば、軽量化を優先すればエアロ性能が犠牲になり、エアロ性能を追求すれば重量が増加するというトレードオフが避けられませんでした。PEAKはこの常識を覆し、両立を果たした点で画期的なモデルと言えます。

CEEPOブランドの系譜と田中信行氏の哲学

CEEPOというブランドを理解するためには、創業者である田中信行氏の存在を抜きに語ることはできません。田中氏は70歳を超えてなお現役のトライアスリートとして活動を続けており、アイアンマンレースやフルマラソンに挑戦し続ける稀有な経営者です。「トライアスロンは生涯スポーツである」という信念と、自身のレース経験から導き出される「機材への妥協なき要求」が、CEEPOの製品開発の根幹を成しています。

従来のCEEPOは、トライアスロン特有の「ドラフティング禁止(単独走行)」ルールに特化したバイク開発を行ってきました。ViperやShadow-Rといったモデルに見られる異形のフレーム形状は、UCI(国際自転車競技連合)の規定に縛られることなく、純粋に空気抵抗を削減することだけを追求した結果でした。しかし、PEAKの開発においてCEEPOはその方向性を大きく転換させました。「ドラフティング許可レース」、すなわちオリンピックディスタンスのトライアスロンや、UCIルールの下で行われる純粋なロードレースでの勝利を目指すという新たな挑戦を決断したのです。

フレーム重量690gを実現した完全一体モールド製法の革新性

CEEPO PEAKの690gという軽量化を可能にした最大の要因が「完全一体モールド製法(One-Piece Carbon Mold)」です。カーボンフレームの製造において、最も一般的でありながら構造的な弱点となり得るのは「接合」という工程にあります。多くの「モノコック」と呼ばれるフレームでさえ、実際には前三角(フロントトライアングル)と後ろ三角(リアトライアングル:シートステーやチェーンステー)を別々の金型で成形し、その後に接着剤や補強用のカーボンシートを用いて接合する工程を経て作られています。

この接合部には、強度を確保するために余分な材料が必要となり、それが重量増の要因となるだけでなく、応力伝達の不連続点、すなわち剛性のボトルネックとなる可能性がありました。完全一体モールド製法では、ヘッドチューブからリアエンドに至るまで、フレーム全体を単一の金型で一度に成形します。前三角と後ろ三角の継ぎ目が物理的に存在しないため、接合に必要なオーバーラップ部分や接着剤を完全に排除できます。この構造材以外の「贅肉」を削ぎ落とすことで、フレーム単体重量690gという驚異的な数値を達成しました。

完全一体モールド製法がもたらす剛性30%向上の意味

完全一体モールド製法のメリットは軽量化だけではありません。繊維が途切れることなく連続して配置されるため、ペダリングパワーが入力されるボトムブラケット周辺から、駆動力を路面に伝えるリアエンドまで、応力がスムーズに伝達されます。CEEPOのデータによれば、この一体成形により剛性は従来比で30%向上しています。

通常、軽量化は剛性の低下を招きがちです。素材を薄くすれば軽くなりますが、同時に強度や剛性も失われるからです。しかし、PEAKは「軽くなりながら硬くなる」という理想的な進化を遂げています。これは接合部という構造的な弱点を排除したことで、必要な場所に必要な量のカーボンを最適に配置できるようになった結果です。ライダーがペダルを踏み込んだ際に、そのパワーが無駄なく推進力へと変換される感覚は、高剛性フレームならではの特徴と言えます。

東レM40Xカーボンが支える690gの軽さと高剛性

完全一体モールド製法を支えているのが、日本の東レが誇る最高峰のカーボン繊維「TORAYCA M40X」です。カーボン繊維には「引張強度(強さ)」と「引張弾性率(硬さ)」のトレードオフが存在するのが一般的でした。硬くしようとすれば脆くなり、強くしようとすればしなやかになりすぎるという二律背反がありました。

M40Xはこの二律背反を打破した革新的な素材です。T1100Gと比較して弾性率(剛性)を約30%向上させつつ、高い強度を維持しています。CEEPOの公表値では、従来のT1100と比較してモジュラス(弾性率)が16%、T1000と比較して28%高いとされています。この高剛性素材を一体成形技術と組み合わせることで、チューブの肉厚を極限まで薄くしても必要な剛性と強度を確保することが可能となりました。つまり、690gという軽さは、設計者の無謀な挑戦ではなく、素材と製法の進化によって裏付けられた「必然の軽さ」なのです。

CEEPO PEAKのエアロダイナミクス性能とCdA14%削減

スーパーロードバイクであるPEAKは、登坂性能だけでなく、平地での高速巡航性能においても妥協がありません。その設計思想は「空気抵抗の壁を打ち砕く(crush the wind)」という言葉に集約されています。具体的な数値として、PEAKはStingerと比較して前面投影面積を11%縮小しています。バイクを正面から見たときの面積が小さいほど、空気が衝突する物理的な壁が小さくなるため、これは空気抵抗削減に直結します。

さらに、フレーム各部のチューブ形状には、翼断面の後端を切り落としたような「カムテール形状(Truncated Airfoil)」が採用されています。この形状は、横風に対する安定性を保ちながら、仮想的な翼断面を形成して気流を整える効果があります。これらの設計により、PEAKはStingerと比較してCdA(空気抵抗係数×前面投影面積)を14%削減することに成功しました。時速40kmで走行した際に、約4.4ワットのエネルギーを節約できる計算になります。長時間のレースやトライアスロンのバイクパートにおいて、この「無料の4.4ワット」が蓄積されれば、最終的なタイムやその後のランニングパートへの脚の残り方に決定的な差を生むことになります。

ケーブル完全内装化とFSA SMRシステムの採用理由

エアロダイナミクスを完結させるための重要な要素がケーブルの処理です。PEAKでは、ブレーキホースやエレクトリックワイヤーをすべてフレームおよびハンドル・ステム内部に収納するフル内装システムを採用しています。露出したケーブルは円柱状の物体として気流を乱す大きな要因となるため、これを隠すことは現代のハイエンドバイクの必須条件となっています。

CEEPOはメンテナンス性と汎用性を考慮し、FSAのSMR(Smart Cable Routing)ステムシステムを採用しました。一体型ハンドルバーしか使えない独自規格のバイクも多い中、SMRシステムを採用することで、ライダーは好みのハンドルバーを選択でき、ポジション調整の自由度が高まります。これは、遠征が多く、梱包や組み立てを頻繁に行うトライアスリートのニーズを熟知しているCEEPOならではの配慮と言えるでしょう。

CEEPO PEAKのジオメトリ設計と攻撃的なポジション

PEAKのジオメトリは、Stingerで確立された「On-the-Rivet(サドルの先端に座って全力でペダリングする状態)」のポジションをさらに洗練させたものです。これはリラックスしたクルージングのための設計ではなく、あくまでレースで勝つための攻撃的な姿勢を前提としています。

特筆すべきは、トレイル値(ステアリングの安定性に関わる数値)の設定です。PEAKは50mm〜70mmというトレイルウィンドウを設定しており、これによりハンドリングは非常に機敏でありながら、高速域では岩のような安定感を発揮します。クリテリウムのような細かいコーナーが続くコースから、時速70kmを超えるダウンヒルまで、ライダーの意図通りにバイクが反応するようチューニングされています。

ボトムブラケット位置の最適化と低重心設計

PEAKのボトムブラケット(BB)位置は、Stingerよりも5mm低く設定されています。BB位置が下がるということは、ライダーを含めたシステム全体の重心が下がることを意味します。これにより、コーナーリング時の安定性が向上し、地面に吸い付くような感覚が得られます。同時に、BB周りの剛性が高い一体成形フレームとの相乗効果で、ダンシング時の振りの軽さと、ペダルを踏み込んだ際のダイレクト感が高まります。

低重心化は高速走行時の安定性に大きく寄与します。特にダウンヒルにおいて、従来の超軽量バイクの中にはフレームが薄すぎて高速コーナーで挙動が不安定になるものもありました。しかし、PEAKは一体成形によるフロント周りとBB周りの強固な剛性確保、そして低重心化されたBBドロップにより、下り坂でもレールの上を走るような安定感を提供します。

32mmタイヤクリアランスがもたらす走行性能の汎用性

かつてのレーシングバイクは23mmなどの細いタイヤを前提としていましたが、PEAKは最大32mm(実質33mm程度)のタイヤクリアランスを確保しています。これは現代のロードレースにおける「ワイドタイヤ化」のトレンドに対応したものです。28mmタイヤを装着すれば軽快な反応性を、32mmタイヤを装着すれば路面追従性と快適性を向上させることができます。

高剛性なM40Xカーボンフレームは、路面からの振動を伝えやすい傾向にあります。しかし、エアボリュームのあるタイヤと組み合わせることで、その剛性を推進力に変換しつつ、身体へのダメージを軽減することが可能です。CEEPOはこれを「28mmで空を飛び、32mmで快適に巡航する」と表現しており、コースプロフィールに合わせたセッティングの幅を持たせています。

電動変速専用設計の理由と対応コンポーネント

PEAKの極限までの軽量化とエアロダイナミクスを追求した結果、一つの大きな特徴として「電動変速コンポーネント専用」という設計があります。SHIMANO Di2、SRAM eTap AXS、Campagnolo EPSのみが対応し、機械式変速機は使用できません。

機械式変速のためのケーブルルートを確保するためには、フレーム内部にガイドを設けたり、アウター受けのために開口部を補強したりする必要があり、これが重量増や構造的な複雑さを招きます。これらを排除することで、カーボン積層の最適化を突き詰め、690gという重量を実現しています。この設計判断は、PEAKがターゲットとする層が、ハイエンド機材を使用するシリアスライダーであることを明確に示しています。

CEEPO PEAKの駆動系仕様と1x・2x両対応

フロントディレイラー台座は設けられており、昨今のトレンドに合わせて1x(フロントシングル)と2x(フロントダブル)の両方に対応しています。2xセットアップ時は最大54/40T、最小46/33Tの組み合わせが可能で、1xセットアップ時は最大54T、最小33Tに対応します。最大54Tという設定は、タイムトライアル特化の巨大なギアではなく、ロードレースにおける実用的なギア比を想定していることがわかります。

また、リアディレイラーハンガーにはSRAMが提唱するUDH(Universal Derailleur Hanger)を採用しています。これにより、万が一のハンガー破損時にも補修部品が入手しやすく、また将来的なコンポーネントの規格変更にも対応できる可能性を残しています。

専用シートポストとリッチー製クランプの採用

シートポストはPEAK専用のエアロ形状のものが採用されており、クランプヘッドには信頼性の高いリッチー製1ボルトシステムが使われています。専用品ではありますが、サドルレールの固定方式は汎用性が高く、細かな角度調整も容易です。また、ゼロオフセット(セットバックなし)の設計となっており、これは前乗りのアグレッシブなポジションを取りやすくするための配慮と考えられます。

CEEPO PEAKの実走性能と乗り味の特徴

CEEPOのバイク、特にPEAKのような高剛性・超軽量バイクの乗り味は、しばしば「幽体離脱」と形容されるような独特の感覚をもたらすとされています。690gというフレーム重量は、漕ぎ出しの瞬間に物理的な質量の少なさをライダーに伝えます。特にM40Xカーボンによる高い弾性率は、ペダルを踏み込んだ瞬間の「たわみ」を極小化します。これにより、入力したパワーが瞬時に速度へと変換され、バイクがライダーの思考よりも半歩先に進むような、鋭いレスポンスが得られるでしょう。登坂においては、重力に逆らう抵抗が減るため、勾配がきつくなるほどその恩恵を感じることができます。

高剛性フレームと快適性のバランス

M40Xと一体成形の組み合わせは、30%の剛性向上をもたらすと同時に、路面からの突き上げもダイレクトに伝える可能性があります。しかし、CEEPOの設計思想には、長距離のトライアスロンで脚を残すためのノウハウも生かされています。一体成形によるシートステーの接合部は、応力集中がないため、振動をフレーム全体で分散・減衰させる効果も期待できます。さらに、32mmタイヤを運用することで、高剛性フレーム特有の硬さを相殺し、しなやかな乗り心地を実現することが可能です。

CEEPO PEAKと競合モデルの比較

市場において「超軽量ディスクロード」のベンチマークとなっているモデルとしてSpecializedのAethosがあります。Aethosはフレーム重量約585gで、円形のチューブ形状を採用し、空力性能よりも「自転車本来の走る喜び」や軽さを追求しています。対してCEEPO PEAKは、フレーム重量で約100g重くなりますが、明確なエアロ形状を持っています。Aethosが「純粋なクライマー/ライドフィーリング重視」であるのに対し、PEAKは「平地も速いクライマー/レース重視」という立ち位置です。空力を犠牲にせずに600g台に突入した点に、PEAKの特異性があります。

FactorのO2 VAMもまた、軽量エアロクライミングバイクとして強力なライバルです。O2 VAMはフレーム重量約700gとされており、両者はスペック上非常に似通っています。しかし、CEEPOは「完全一体モールド製法」による構造的な連続性と耐久性、そしてトライアスロンブランド由来の「独走力」を重視したジオメトリで差別化を図っています。また、日本のブランドであること、田中代表の哲学が色濃く反映された「人機一体」を目指す設計思想も、ライダーにとっては選択の大きな理由となるでしょう。

トライアスロンブランドからロードレース市場への挑戦

長らく「トライアスロン専用ブランド」として認知されてきたCEEPOが、ロードレースの頂点を目指すモデルを投入したことは、業界にとって大きな意味を持ちます。それは、トライアスロンで培った空力技術と、長距離を独走するための快適性技術が、純粋なロードレースの世界でも通用する、あるいは凌駕するレベルに達したという自信の証明です。完全一体モールド製法は、生産効率を考えれば採用しづらい手法です。金型のコスト、成形の難易度、歩留まりのリスクなど、多くのハードルがあります。しかし、それを乗り越えてでも「理想の構造」を追求した点に、CEEPOのクラフトマンシップが宿っています。日本の東レ製カーボンを使い、日本のブランドが世界に問うこのバイクは、大量生産品とは一線を画す価値を持っています。

CEEPO PEAKのスペック比較表

CEEPO PEAKの主要スペックを競合モデルと比較すると、その特徴がより明確になります。

項目CEEPO PEAKSpecialized AethosFactor O2 VAM
フレーム重量690g約585g約700g
製造方法完全一体モールド従来型モノコック従来型モノコック
カーボン素材東レM40XFACT 12r非公開
エアロ形状ありなしあり
最大タイヤ幅32mm30mm30mm
変速システム電動専用機械式/電動両対応電動専用

この表から分かるように、PEAKは軽量性とエアロ性能の両立において独自のポジションを確立しています。

CEEPO PEAK 690gフレームがもたらす走行体験のまとめ

CEEPO PEAKは、単なるスペックの足し算ではありません。「完全一体モールド製法」という革新的な製造プロセスを核に、東レM40Xという最高級素材、そしてエアロダイナミクスの知見が融合した、エンジニアリングの傑作です。フレーム重量690gによる圧倒的な登坂性能、CdA14%削減によるエアロロード並みの巡航性能、一体成形とM40Xによる高剛性と反応性、最大32mmタイヤによる快適性と路面対応力、これらすべての要素が一つのフレームの中で矛盾することなく共存しています。

PEAKは、アルプスの峠を攻めるクライマーにとっても、平坦路を逃げ切るルーラーにとっても、そしてオリンピックを目指すトライアスリートにとっても、最強の武器となり得るポテンシャルを秘めています。「スーパーロードバイク」という呼称は、決して誇張ではありません。それは、ロードバイクが到達した、新たな進化の頂(ピーク)を示しているのです。

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