修善寺サイクルトレインを利用したヒルクライムツアーとは、伊豆箱根鉄道の自転車持ち込みサービスを活用し、三島駅から修善寺駅まで愛車と共に移動した後、日本サイクルスポーツセンター(CSC)を目指して本格的な登坂を楽しむサイクリング体験のことです。2026年1月24日には、パリオリンピック代表選手と共に走れる特別ガイドツアーの開催が予定されています。このツアーは参加費1,000円という破格の価格設定でありながら、サイクルトレイン乗車体験、プロ選手によるガイド、アスリート弁当まで含まれた充実の内容となっています。
静岡県伊豆市の修善寺エリアは、東京2020オリンピック・パラリンピックで自転車競技の会場となったことをきっかけに、日本におけるサイクルスポーツの聖地としての地位を確立しました。かつては温泉観光地としてのイメージが強かったこの地域ですが、現在では「観るスポーツ」から「するスポーツ」への転換が進み、多くのサイクリストが訪れる人気スポットとなっています。その中核を担っているのが、鉄道と自転車移動をシームレスに統合した「サイクルトレイン」の存在です。本記事では、修善寺へのアクセス方法から、ヒルクライムコースの攻略法、オリンピックレガシー施設の魅力、そしてレンタルバイクや宿泊施設の最新情報まで、サイクリストが知っておくべき情報を網羅的にお伝えします。

伊豆箱根鉄道サイクルトレインとは
伊豆箱根鉄道駿豆線(通称「いずっぱこ」)のサイクルトレインとは、三島駅から修善寺駅までの区間で自転車をそのまま車内に持ち込めるサービスのことです。このサービスの最大の特徴は、自転車の持ち込みに追加料金が一切発生しない点にあります。利用者は乗車区間の運賃のみを支払えばよく、分解や梱包が必要な通常の輪行と比較して、経済的にも物理的にも大幅にハードルが下がっています。
この「無料持ち込み」という施策は、単なるサービスの一環ではなく、地域全体でサイクリストを歓迎するという強いメッセージとして機能しています。予約に関しても、2台以下の少人数であれば原則不要という柔軟な運用がなされており、天候や体調に合わせて当日の判断で利用できる点も魅力です。ただし、3台以上のグループ利用や、5台以上の大人数での利用については、事前の連絡や予約が必要となる場合があるため注意が必要です。
サイクルトレインの運行時間と利用可能時間帯
サイクルトレインの利用可能時間は、通勤・通学ラッシュを避ける形で設定されています。平日は午前9時から午後3時前後に限定されており、具体的には三島発が9時00分から14時53分、修善寺発が9時02分から14時58分となっています。一方、観光客の利用が集中する土日祝日については、早朝7時台から夕方17時台まで大幅に拡大されています。三島発は7時11分から17時50分、修善寺発は7時05分から17時52分という設定で、ほぼ終日の利用が可能です。
この時間設定は、日帰りのサイクリングや1泊2日の旅行行程を組む上で非常に合理的といえます。首都圏を朝に出発し、新幹線で三島駅に到着した後、午前中の便で修善寺へ移動し、日中にライドを楽しんでから夕方の便で戻るという行程が無理なく成立します。
サイクルトレインの車両構造と乗車方法
利用可能な車両は、3両編成の列車における両端の車両に限定されています。修善寺寄りの先頭車(1号車)と三島寄りの先頭車(3号車)が対象となっており、1列車あたりの最大積載台数は6台(各車両3台ずつ)と定められています。1人につき1台までの持ち込み制限があるため、複数台を一人で運ぶことはできません。
駅構内での動線設計も工夫されています。利用者は改札口で自転車が規定サイズ内であることを確認した後、自転車をそのまま押して入場します。駅の床面には自転車の移動ルートを示す青いステッカーが貼付されており、これに従うことで他の乗客との交錯を避けながら、エレベーターやスロープを経由してホームへアクセスできます。一部の駅では構内踏切を利用してフラットに移動できる構造となっており、ビンディングシューズを履いたサイクリストや、重量のあるE-BIKEユーザーにも配慮がなされています。
車内では、自転車が転倒しないよう指定されたスペースにて自身の手で保持するか、ベルト等で固定することが求められます。スタンドのないロードバイクの場合、揺れる車内での保持は必須スキルとなりますが、愛車を分解することなくそのまま移動できるメリットは、この軽微な労力を補って余りあるものです。
2026年1月開催の特別ガイドツアーの詳細
2026年1月24日(土)に開催が予定されている「いずっぱこサイクルトレイン」ガイドツアーは、修善寺エリアのサイクルツーリズムの成熟度を示す象徴的なイベントです。このツアーの参加費は税込1,000円という破格の設定となっており、サイクルトレインの乗車体験、ガイド料、アスリート弁当、そして日本代表選手による帯同がすべて含まれています。
この価格設定が実現できている背景には、静岡県や伊豆市による助成事業や観光促進予算の投入があると考えられます。行政がいかに「自転車」を観光資源として重要視しているかを示す好例といえるでしょう。
パリオリンピック代表選手と共に走れる貴重な体験
本ツアーの最大の魅力は、パリオリンピック代表の池田瑞紀選手(早稲田大学/チーム楽天Kドリームス)や、ナショナルチームの河野翔輝選手(HPCJC-BRIDGESTONE ANCHOR)といった現役のトップアスリートと共に走ることができる点にあります。通常、プロ選手とのライドイベントには高額な参加費が設定されることが一般的ですが、本ツアーでは彼らが全行程に帯同し、修善寺駅から日本サイクルスポーツセンターまでのヒルクライムを共にこなします。
世界最高峰の舞台を知る選手のペダリングやフォームを間近で観察し、休憩中に直接言葉を交わすことができる体験は、参加者にとって技術的にも精神的にも大きな財産となります。この取り組みは単なるファンサービスを超え、自転車文化の裾野を広げ、次世代のファンや競技者を育成するという教育的な側面も持っています。
雨天時も安心の代替プログラム
屋外スポーツイベントにおいて天候リスクは避けられない課題ですが、本ツアーでは雨天時の代替プランが充実しています。雨天の場合、行程は「日本競輪選手養成所(JIK)」の施設見学や、「伊豆ベロドローム」でのワットバイク体験に切り替えられます。
伊豆ベロドロームは、東京2020大会のトラック競技会場となった世界基準の木製250mバンクを有する屋内施設です。通常は一般の見学が制限されているエリアや、実際に選手がトレーニングで使用するワットバイクを体験できることは、サイクリストにとって晴天時のライドに勝るとも劣らない魅力的な内容といえます。天候に関わらず「自転車の聖地」としての真正性を体験できるプログラム構成は、ツアーの満足度を高める重要な要素となっています。
修善寺駅からCSCへのヒルクライムコース攻略法
ツアーのメインとなるのが、修善寺駅から日本サイクルスポーツセンター(CSC)までの移動区間です。ここは単なる移動路ではなく、獲得標高と勾配の変化に富んだ本格的なヒルクライムコースとしての側面を持っています。
コースプロファイルと地理的特性
修善寺駅の標高は約50メートル前後ですが、目的地であるCSCは標高約250〜300メートル以上の山間部に位置しています。距離にして約5kmから8km(ルート選定により変動)の行程ですが、その平均勾配や獲得標高は、初心者にとっては挑戦的であり、中上級者にとっては心地よい負荷を感じられる設定となっています。
スタート直後は修善寺温泉街や住宅地を抜ける比較的穏やかな勾配ですが、市街地を離れるにつれて勾配は増していきます。CSCへのアクセス道路周辺や、近隣のゴルフ場の脇を抜ける区間では、平均勾配が7〜8%に達し、瞬間的には10%を超える激坂も出現します。
セクション別の走り方のコツ
序盤のアプローチ区間では、駅周辺の交通量が多いエリアを抜け、狩野川の支流沿いなどを進みます。ここではウォーミングアップを兼ねて回転数を高めに維持し、脚を温めることが重要です。急いでペースを上げる必要はなく、身体を登坂に備えさせる意識で走りましょう。
中盤のクライミング区間では本格的な登坂が始まり、直線の長い登りや、視覚的に壁のように見える区間が現れます。別荘地付近へ向かうルートをとる場合、一定の勾配が長く続くため、ペース配分を誤ると後半に失速するリスクがあります。自分の心拍数や呼吸を確認しながら、無理のないペースを維持することが完走への鍵となります。
終盤のCSCゲート付近では、入口ゲートが見えてからも、施設内の各エリアへ移動するためにさらなるアップダウンが待ち受けています。ゴールが見えたからといって気を緩めず、最後までペダルを回し続ける精神力が求められます。路面状況は全般的に良好で舗装も整備されていますが、山間部特有の落ち葉や、冬季(1月開催時)の路面凍結には細心の注意が必要です。
日本サイクルスポーツセンター(CSC)の魅力
目的地である日本サイクルスポーツセンター(CSC)は、単なるレジャー施設ではありません。ここは自転車競技の強化拠点であり、数々のレースが繰り広げられてきた歴史ある施設です。
5kmサーキットの特徴と走り方
CSCの中核をなすのが「5kmサーキット」です。このコースは「平坦な場所がほとんどない」と言われるほど過酷な設計で知られています。全長5km、幅員は8〜30mですが、特筆すべきはその高低差と勾配です。コースプロフィールには斜度「-10%〜12%」と記載されていますが、実際に走行したサイクリストの証言によれば、体感的な負荷はそれ以上とのことです。
特にホームストレート直後に待ち受ける通称「心臓破りの坂」や、コース中盤の長い登り区間(平均勾配7〜8%、最大14%とも言われる)は、選手の心肺機能と脚力を極限まで試します。一方、下り区間ではジェットコースターのような急勾配とテクニカルなコーナーが連続し、「秀峰亭」と呼ばれる休憩ポイントを過ぎた後の下りでは、時速60km以上のスピードが容易に出るため、高度なバイクコントロール技術が要求されます。
このサーキットを1周するだけで獲得標高は約140m〜200mに達し、周回を重ねることは実業団レースでも勝負の分かれ目となる過酷なインターバルトレーニングとなります。
伊豆ベロドロームで世界基準のトラックを体感
敷地内に鎮座する銀色の巨大なドームが「伊豆ベロドローム」です。ここは日本初の屋内板張り250mトラックであり、UCI(国際自転車競技連合)の規格に完全準拠した施設です。最大傾斜角度45度のバンクは、間近で見ると垂直の壁のようにそそり立っており、その威容は圧巻です。
通常営業日であれば、観客席からナショナルチームの練習風景を無料で見学することが可能です(スケジュールの確認は必要)。中野慎詞選手や太田海也選手といった世界トップクラスのスプリンターたちが、トラックを疾走する際の重低音と風圧を体感することは、自転車競技ファンにとって至高の体験といえます。施設内には自転車の歴史に関する展示や、過去の名選手の使用機材なども展示されており、文化的な学びの場としても機能しています。
アスリート弁当と修善寺の食の魅力
サイクルツーリズムにおいて「食」はエネルギー補給以上の意味を持ちます。本ツアーでは、科学的根拠に基づいた「アスリート食」と、地域の伝統食材を用いた「グルメ」の双方を楽しむことができます。
ナショナルチームを支えるアスリート弁当の特徴
CSC内の「レストラン富士見」で提供される予定の「アスリート弁当」は、隣接する伊豆ベロドロームで日々トレーニングを行う自転車トラック競技日本ナショナルチーム(HPCJC)のために開発された食事プログラムをベースにしています。
管理栄養士の監修のもと設計されたメニューは、「高タンパク質」「低脂質」「消化吸収の良さ」を徹底的に追求しています。激しいトレーニングの合間や直後でも内臓に負担をかけずに栄養を摂取できるよう工夫されており、鶏むね肉や白身魚などの良質なタンパク源に加え、ビタミンやミネラルを豊富に含む副菜がバランスよく配置されています。参加者はこの弁当を通じて、金メダルを目指す選手たちが日々どのような栄養戦略をとっているかを、味覚を通じて体感することができます。
修善寺名物の生わさび丼を堪能する
修善寺駅周辺や温泉街における食のハイライトは、伊豆市の特産品である「わさび」を主役にした料理です。テレビドラマ『孤独のグルメ』で紹介され一躍全国区となった「わさび丼」は、修善寺を訪れたら必食の一品です。
この料理の真髄はそのシンプルさにあります。炊き立ての白飯に鰹節をまぶし、その上に自分ですり下ろしたばかりの新鮮な生わさびを乗せ、醤油を回しかけて食べます。ただそれだけの料理ですが、その味わいは衝撃的です。すりたてのわさびは、鼻に抜ける爽快な辛味と共に、奥深い甘みと清涼感を持っています。
修善寺駅前の「定連(じょうれん)」や、温泉街近くの「あまご茶屋」などが名店として知られています。「定連」では、そばとのセットで提供されることが多く、わさびの茎の醤油漬けなどが添えられることもあり、わさびの多面的な魅力を堪能できます。食べる際のコツは、わさびを醤油に溶かすのではなく、わさびをご飯に乗せてから醤油をかけることです。これにより、わさびの香りが揮発することなくダイレクトに鼻腔を刺激し、サイクリングで疲れた身体を一瞬で覚醒させてくれます。
レンタルバイクの最新事情と注意点
遠方からの参加者にとって、自転車の輸送や現地でのレンタル環境は極めて重要な情報です。近年、伊豆エリアのレンタル事情には大きな変化がありました。
MERIDA X BASEの移転による影響
かつて伊豆の国市(修善寺の隣接地)に拠点を構え、最新鋭のロードバイクレンタルを提供していた「MERIDA X BASE」は、2025年9月30日をもって同地での営業を終了し、富士市(富士市サイクルステーション「ふじクル」)へ移転しました。
この移転により、「手ぶらで修善寺に行き、現地で最高級のロードバイクを借りてツアーに参加する」という従来の黄金パターンは利用できなくなりました。富士市から修善寺までは距離があり、自転車で自走するには一定の脚力と時間を要します。したがって、自身のバイクを持参しない参加者は、代替のレンタル手段を確保する必要があります。
現在利用可能な代替レンタルサービス
MERIDA X BASEの移転後、修善寺エリアでのロードバイク確保には事前の計画が不可欠となっています。
サイクルベースあさひ三島店は三島駅周辺での有力な選択肢です。ロードバイク(1日3,500円・税抜)やスポーツタイプのE-BIKE(1日5,000円・税抜)のレンタルを行っています。三島駅で自転車を借り、そのままサイクルトレインに乗車して修善寺へ向かうプランは、現在の環境下で最も合理的かつスムーズな動線といえます。
コナサイクル(コナステイ伊豆長岡)は伊豆長岡駅近くの宿泊施設「コナステイ」が運営するレンタルサービスです。MiyataのCRUISEシリーズなど、高性能なE-BIKEのラインナップが充実しています。E-BIKEのアシスト力があれば、修善寺からCSCへの激坂も余裕を持って登り切ることが可能です。伊豆長岡駅から修善寺駅までは電車でわずか数駅であり、アクセスも良好です。
ハレノヒサイクルは伊豆市内で展開されるシェアサイクルサービスです。修善寺駅北口などにステーションがありますが、主な車種は電動アシスト付きのシティサイクルや小径車です。街乗りや短距離の移動には便利ですが、CSCへの本格的なヒルクライムや長距離ツーリングには、バッテリー容量やギア比の面で不向きな場合があります。
サイクリストにおすすめの宿泊施設
サイクリングの拠点となる宿泊施設も、サイクリストフレンドリーな進化を遂げています。修善寺エリアには、自転車愛好家のニーズに応える特徴的な宿が揃っています。
コナステイ伊豆長岡はサイクリストの楽園
「コナステイ伊豆長岡」は、古い旅館をリノベーションして作られた、サイクリストのために存在するホテルです。客室への自転車持ち込みが可能であることはもちろん、館内にはメンテナンススペース、工具の貸し出し、洗車場、そしてサイクリスト同士が交流できるラウンジが完備されています。
温泉も源泉掛け流しであり、ライド後の筋肉疲労を癒やすには最適の環境です。ここをベースキャンプとし、日替わりで伊豆の各エリア(修善寺、西伊豆スカイライン、沼津など)へ出撃するスタイルは、多くのサイクリストに支持されています。
The Crankは修善寺駅前の便利な拠点
修善寺駅の目の前に位置する「The Crank」は、イタリアンレストランと宿泊施設が融合した複合施設です。1階のレストランには高級ロードバイクがディスプレイされ、ピザ窯で焼かれる本格的なピザやパスタを楽しむことができます。上階の宿泊エリアはドミトリー形式から個室まで用意されており、ソロのサイクリストからグループまで柔軟に対応します。駅徒歩1分という立地は、サイクルトレインを利用する上で最強の利便性を誇ります。
伊豆マリオットホテル修善寺でラグジュアリーな滞在
より上質な滞在を求める方には「伊豆マリオットホテル修善寺」がおすすめです。ラフォーレリゾート修善寺の広大な敷地内にあり、客室には温泉露天風呂が付いているタイプもあります。同ホテルでは、クロスバイクタイプのE-bikeレンタルも実施しており、ホテルを起点とした優雅なサイクリング体験を提案しています。
修善寺サイクルツーリズムの魅力と今後の展望
修善寺・伊豆エリアにおけるサイクルツーリズムは、単なる一過性のブームではなく、鉄道会社、自治体、競技施設、そして地域住民が一体となって構築した持続可能なエコシステムへと進化しています。
伊豆箱根鉄道のサイクルトレインは、公共交通機関と自転車の共存のあり方を示し、CSCやベロドロームといったオリンピックレガシーは、市民に開かれたスポーツの場として再定義されました。2026年1月のツアーに見られるように、トップアスリートと一般市民が同じ道を走り、同じ食事を共にするという体験は、スポーツ文化の成熟を示すものです。
機材レンタルの環境変化など、ロジスティクス面での調整は必要ですが、三島や伊豆長岡を含めた広域ネットワークを活用することで、その魅力はさらに増幅されます。修善寺駅からCSCへと続く坂道は、決して楽な道のりではありませんが、その頂には日本の自転車文化の最先端と、富士山を望む絶景、そして自身の限界を超えた達成感が待っています。修善寺は、ペダルを回すすべての人にとって、訪れるたびに新たな発見と挑戦を提供してくれる真の「自転車の聖地」であり続けるでしょう。


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