メリダが2025年11月7日に発表した新型グラベルロード「MISSION(ミッション)」は、税込330,000円のフレームセットから935,000円のハイエンド完成車まで3つのラインナップで展開される、スピード志向のレーシンググラベルバイクです。従来のアドベンチャーモデル「SILEX(サイレックス)」とは異なり、ロードバイク譲りの空力性能と低重心設計を融合させた本格的なレースマシンとして開発されました。この記事では、新型MISSIONの価格やスペックの詳細、競合モデルとの比較、そして日本のグラベルシーンにおける最適な選び方まで徹底的に解説します。

メリダ新型MISSION誕生の背景とグラベルロード市場の変化
グラベルロードというカテゴリーは、ここ数年で大きな転換期を迎えています。かつてはバイクパッキングや長距離アドベンチャーに適した「冒険と積載」を重視したバイクが主流でしたが、現在は「純粋な速度と競技性」を追求する第二世代へと移行しつつあります。
メリダはこれまで「SILEX」というグラベルバイクで市場を牽引してきました。SILEXはマウンテンバイクにインスパイアされた長いトップチューブと短いステム、そしてアップライトなジオメトリーを持ち、バイクパッキングや長距離ツーリングにおいて高い評価を獲得しています。2023年のグラベル世界選手権ではマテイ・モホリッチ選手がSILEXに乗って勝利を収めるなど、実績も十分です。
しかし、SILEXの成功の裏で、メリダのラインナップには明確な「空白」が存在していました。それは舗装路と未舗装路が混在するコースを、ロードバイクに匹敵する速度域で駆け抜けるための「純粋なレーシングマシン」の不在です。欧州を中心としたグラベルレースシーンではコースの高速化が進み、空気抵抗の削減と前傾姿勢の維持が勝敗を分ける重要な要素となっています。SILEXの快適性は武器になりますが、その直立したポジションは高速巡航時の空力面で不利に働く場面もありました。
一方で、ロードバイクの「SCULTURA ENDURANCE(スクルトゥーラ エンデュランス)」は高速走行に優れますが、オフロードでの走破性には限界があります。この「SILEX」と「SCULTURA ENDURANCE」の間に存在するギャップを埋めるために開発されたのが、新型「MISSION」なのです。
MISSIONという名前に込められた意味とは
「MISSION」という名前は、メリダファンにとって特別な響きを持っています。かつてシクロクロス競技用バイクとしてラインナップされていた「MISSION CX」は、泥と障害物にまみれた過酷なレース環境で勝利するために設計された生粋のレーサーでした。今回、その名がグラベルバイクとして復活したことは、メリダがこの新型バイクに「レースで勝つための機材」としての使命(Mission)を与えていることを明確に示しています。
新型MISSIONの設計思想とロードバイクDNAの融合
新型MISSIONの開発において中心に据えられたのは、「ロードバイクのDNAをグラベルに移植する」というアプローチです。これは単にロードバイクのタイヤを太くしただけのものではなく、ロードバイクが持つ「反応性」「空力性能」「軽快感」を損なうことなく、オフロードでの制御性を融合させるという高度なエンジニアリングの結果です。
SCULTURA ENDURANCEからの系譜と進化
MISSIONのデザイン言語は、アドベンチャーバイクのSILEXよりも、ロードバイクのSCULTURAシリーズに極めて近いものとなっています。フレームのシルエットは流麗で、風洞実験に基づいたエアロダイナミクス形状が随所に取り入れられています。ダウンチューブ、シートチューブ、シートステーの接合部には空気の流れを整え、抗力を最小限に抑えるカムテール形状が採用されており、時速30km以上での巡航時に明確なアドバンテージをもたらします。
開発チームはSCULTURA ENDURANCEのプラットフォームをベースにしつつ、グラベルレース特有の要求に合わせてジオメトリーと細部を徹底的に再調整しました。その結果、MISSIONは「太いタイヤを履いたSCULTURA」と呼ぶにふさわしい走行性能を獲得しています。ペダルを踏み込んだ瞬間の加速感やダンシング時の振りの軽さは、重量級グラベルバイクとは一線を画すものであり、ライダーに対して「もっと速く走れ」と急かすような攻撃的な性格を帯びています。
レーシング・ジオメトリーへの回帰がもたらす走り
MISSIONの設計思想を最も色濃く反映しているのが、そのジオメトリー(フレーム寸法)です。SILEXがアップライトで視界を確保しやすいリラックスしたポジションを提供するのに対し、MISSIONは低く、長く、攻撃的なポジションを可能にします。
具体的には、フレームのスタック(BB中心からヘッドチューブ上端までの垂直距離)とリーチ(BB中心からヘッドチューブ上端までの水平距離)のバランスが、ロードバイクに極めて近くなっています。これによりライダーは深い前傾姿勢をとることができ、前面投影面積を減らして空気抵抗を削減することが可能です。また、短めに設定されたホイールベースは、集団走行時の急な加減速や、テクニカルなコーナーでの俊敏なハンドリングを実現します。これは瞬時の判断と反応が求められるレース展開を想定した設計です。
低重心化による「Sit IN」感覚の実現
攻撃的なポジションの一方で、オフロードでの安定性を確保するために採用されたのが「低いボトムブラケット(BB)」です。メリダはMISSIONにおいて、SILEXやSCULTURAよりもBB位置を下げる設計を採用しました。これによりライダーの重心が地面に近づき、バイクの上に「乗っかっている(On the bike)」のではなく、バイクの中に「収まっている(In the bike)」ような感覚が得られます。
この低重心化は、高速コーナーでの安定感を劇的に向上させます。荒れた砂利道のコーナーでもタイヤが路面を捉える感覚が伝わりやすく、恐怖感を感じることなくバイクを倒し込むことができます。また、直進安定性にも寄与し、疲労時のふらつきを抑制する効果も期待できます。
新型MISSIONのフレームテクノロジーと技術的特徴
新型MISSIONには、メリダが長年培ってきたカーボン成形技術と最新のトレンドを反映した機能が惜しみなく投入されています。
CF4カーボンとナノマトリックス・テクノロジーの採用
日本国内で展開されるMISSIONの全モデル(完成車およびフレームセット)には、メリダのカーボンフレームグレードにおける上位素材である「CF4カーボン」が採用されています。CF4は、ワールドツアーチームが使用する最上級のCF5に次ぐグレードであり、極めて高い剛性と軽量性を両立しています。
特筆すべきは、メリダ独自の「ナノマトリックス・カーボン」技術の採用です。カーボンフレームは一般的に、炭素繊維をエポキシ樹脂で固めて作られますが、この樹脂部分は衝撃に対して脆弱になりがちです。ナノマトリックス技術では、この樹脂にナノレベルの微粒子を配合することで、分子レベルでの結合力を強化しています。これによりフレームの耐衝撃性を最大40%向上させることに成功しました。グラベルライドでは前走車が巻き上げた石がダウンチューブにヒットしたり、予期せぬ転倒に見舞われたりするリスクが常につきまといます。ナノマトリックスによる強化は、軽量なレーシングフレームでありながら、過酷な環境下での長期的な信頼性を担保する重要なテクノロジーです。
40mmタイヤクリアランスに込められた設計意図
新型MISSIONのスペックにおいて注目されているのが、最大タイヤクリアランスが「40mm」と公称されている点です。近年のグラベルバイク、特に北米市場向けのモデルでは、45mmから50mm、あるいはそれ以上のタイヤ幅に対応することが一般的となっています。その中であえて40mmという数値を提示したメリダの意図は、MISSIONが「スピード」に特化したバイクであることにあります。
タイヤ幅を広げるほど、フレームのフォークやチェーンステーを広げる必要があり、重量が増加し、空力性能が悪化します。また、太いタイヤ自体も重量増と転がり抵抗の増大を招く可能性があります。メリダと開発に関わったプロ選手たちは、舗装路と締まったグラベルが混在する現代の欧州レースにおいて、最も効率が良いタイヤ幅は35mmから40mmであると判断しました。
マテイ・モホリッチ選手はインタビューで「公式には40mmだが、多くの顧客は45mmを入れるだろう」と語っており、物理的なクリアランスには多少のマージンがあることが示唆されていますが、設計上のスウィートスポットはあくまで40mm以下のスリックまたはセミスリックタイヤに置かれています。泥深いシングルトラックや岩場を走るならSILEXを選べばよく、MISSIONは高速グラベルレーサーとしての純度を保つために、過剰なクリアランスを切り捨てたのです。この割り切りこそが、MISSIONの走行性能を鋭利なものにしています。
完全内装システム「WIRE PORT」とエアロコックピット
現代のハイエンドバイクにおいて、ケーブルの完全内装化は必須の要件です。MISSIONではヘッドセットを通じてケーブル類をフレーム内部に引き込む「WIRE PORT」システムを採用しています。これによりハンドル周りの空気抵抗を削減するだけでなく、ハンドルバーバッグを取り付けた際にケーブルが干渉するというグラベル特有のストレスを解消しています。
上位モデルにはステム一体型のカーボンハンドルバー「MERIDA TEAM SL 1P GR」が採用されています。このハンドルバーは上ハンドル部分が扁平加工されており、手を置いた際の快適性と空力性能を向上させています。また、ドロップ部分は外側に広がるフレア形状となっており、荒れた下り坂でのコントロール性を高めています。一体型であることによる剛性の高さは、スプリント時のパワー伝達効率にも寄与します。
UDH対応による将来性とメンテナンス性
フレームのリアエンドには、SRAMが提唱し業界標準となりつつある「UDH(Universal Derailleur Hanger)」が採用されています。これによりSRAMの最新コンポーネントであるトランスミッション(T-Type)シリーズの搭載が可能となります。T-Typeはディレイラーハンガーを介さずにフレームに直接ディレイラーを固定する構造を持ち、極めて強固で調整不要な変速システムを実現します。
また、UDHは世界中の多くのショップで入手可能であるため、遠征先やレース会場でハンガーを破損した場合でも、交換部品を入手しやすいというメリットがあります。長く乗り続けるためのメンテナンス性という観点からも、UDHの採用はユーザーにとって大きな利益となります。
フェンダーマウントとリムーバブル・ブリッジの実用性
レーシングバイクでありながら、MISSIONは実用性も犠牲にしていません。フレームには専用のフェンダー(泥除け)マウント「F-MOUNT」が設けられています。特筆すべきは、リアのシートステーに取り付けるブリッジが「着脱可能(リムーバブル)」である点です。
レースや晴天時のトレーニングではブリッジを取り外すことで、タイヤ周りのクリアランスを確保し、シンプルで美しいレーシングバイクの外観を保つことができます。一方で、通勤や冬場のトレーニング、雨天時のライドではブリッジを装着してフルフェンダーを取り付けることで、水しぶきや泥からライダーとバイクを守ることができます。この「一台二役」の柔軟性は、MISSIONを決戦用機材にとどまらず、全天候型の高速コミューターとしても運用可能な万能機へと昇華させています。
日本国内ラインナップ:価格とスペックの詳細比較
2025年11月7日の発表と同時に、日本国内では3つの主要なパッケージでの展開が開始されました。それぞれのスペック、価格、そしてターゲットとなるライダー層について詳しく見ていきましょう。
MISSION 7000:税込935,000円のハイエンドモデル
MISSION 7000は、箱から出してすぐにレースのスタートラインに並ぶことができる、プロスペックに近い構成を持つハイエンド完成車です。価格は税込935,000円に設定されています。高額ではありますが、その構成内容を見ると、競合他社の同等グレードと比較して非常に高いコストパフォーマンスを誇ることがわかります。
カラーは「MATT EARLY MOSS GREY (BRONZE)」という、マット仕上げのグレーにブロンズのロゴをあしらった、シックで高級感のあるデザインが採用されています。
最大の特徴はコンポーネントにSHIMANOの最新グラベル用電動変速システム「GRX825 Di2(2×12速)」をフル採用している点です。Di2による変速は指先のわずかな操作で瞬時に、かつ正確にギアチェンジを行います。泥や砂埃でワイヤーの摺動抵抗が増えるリスクのあるグラベルにおいて、電気信号による変速は絶対的な信頼性を提供します。また、フロントダブル(2x)仕様であるため、急勾配の登坂から高速ダウンヒルまで、あらゆる速度域に対応する広いギア比と細かなケイデンス調整が可能です。
ホイールにはReynolds(レイノルズ)製のカーボンホイール「ATR TSS CL」が標準装備されています。完成車において最初から有名ブランドのカーボンホイールが付属することは稀であり、これが93万円という価格の説得力を高めています。カーボンホイールは軽量であるだけでなく剛性が高く、加速性能に直結します。タイヤにはContinentalの「Terra Speed ProTection 40c TLR」が装着されており、転がり抵抗の軽さと耐パンク性能のバランスに優れた選択となっています。
MISSION 4000:税込423,500円の戦略的ハイパフォーマンスモデル
MISSION 4000は、上位モデルと同じCF4カーボンフレームを使用しながら、パーツ構成を工夫することで価格を抑えた、非常に戦略的なモデルです。価格は税込423,500円で、カーボンフレームの最新グラベルロードとしては驚異的なアクセシビリティを実現しています。
カラーは「SILK LOW KEY GREEN (GREEN)」で、自然の風景に溶け込む落ち着いたグリーンが採用されています。
コンポーネントはShimano GRXのミックス仕様です。メインコンポーネントには信頼性の高い10速の「GRX400」を採用し、クランクセットには上位グレードに近い剛性を持つ「GRX600」を組み合わせています。リア10速というとスペック不足に感じるかもしれませんが、GRX400は上位モデル譲りのチェーンスタビライザー(プーリーケージの暴れを抑える機能)を搭載しており、オフロードでのチェーン脱落リスクを大幅に低減しています。また、油圧ディスクブレーキも標準装備されており、制動力に関しては上位モデルと遜色のない性能を発揮します。
ホイールはShimano製のアルミホイールが採用されており、重量面では上位モデルに譲りますが、耐久性は十分です。コックピット周りも汎用的なステムとハンドルバーの組み合わせとなっており、好みの長さに調整しやすいというメリットもあります。このモデルは初めてのカーボン・グラベルバイクを探しているライダーや、購入後に少しずつパーツをアップグレードして自分だけの一台を作り上げたいライダーにとって、最高のベース車両となります。フレームのポテンシャルは7000グレードと同じであるため、将来的にホイールやコンポを交換すれば、トップレベルの走行性能を手に入れることができます。
MISSION 10K フレームセット:税込330,000円の究極のカスタマイズベース
完成車だけでなく、フレームセット単体での販売も行われています。手持ちのパーツを流用したいライダーや、特定のパーツでこだわり抜いた一台を組み上げたいライダーに向けた選択肢です。
価格は税込330,000円です。昨今のハイエンドフレームセットが50万円から80万円を超える中で、33万円という価格設定は非常に魅力的と言えます。カラーは「TRANSP. BLUE CARBON UD (SILVER)」で、カーボンの積層模様が透けて見えるトランスルーセント(半透明)ブルーの塗装に、シルバーのメタリックロゴが輝く、フレームセット専用の特別なデザインが施されています。
フレームセットには専用のヘッドセット、カーボンシートポスト(MERIDA TEAM SL II)、シートクランプ、スルーアクスルが付属します。特にカーボンシートポストが標準で付属するのはコスト面で大きなメリットです。フレーム重量はサイズによりますが極めて軽量で、完成車重量で7.7kg台を実現可能であり、ヒルクライムを含むハードなコースでもライダーを助けます。
日本国内モデルの価格・スペック比較表
| モデル | 価格(税込) | フレーム | コンポーネント | ホイール | カラー |
|---|---|---|---|---|---|
| MISSION 7000 | 935,000円 | CF4カーボン | SHIMANO GRX825 Di2(2×12速) | Reynolds ATR TSS CL(カーボン) | MATT EARLY MOSS GREY (BRONZE) |
| MISSION 4000 | 423,500円 | CF4カーボン | SHIMANO GRX400/600ミックス(2×10速) | SHIMANO製アルミ | SILK LOW KEY GREEN (GREEN) |
| MISSION 10K フレームセット | 330,000円 | CF4カーボン | – | – | TRANSP. BLUE CARBON UD (SILVER) |
ジオメトリーの詳細比較:MISSIONとSILEXの違い
MISSIONの真価を理解するためには、そのジオメトリーを競合や兄弟モデルと数値的に比較することが不可欠です。ここではMサイズを基準として、その特性を詳しく見ていきます。
スタックとリーチに見る「攻撃性」の違い
ジオメトリーにおいてライダーの乗車姿勢を決定づける最も重要な数値が「スタック(高さ)」と「リーチ(長さ)」です。新型MISSION(Mサイズ)のスタックは569mm、リーチは391mmに設定されています。
これをアドベンチャーモデルのSILEXと比較すると、その違いは歴然としています。SILEX(Mサイズ)のスタックは約607mmであり、MISSIONはそれよりも約38mmも低くなっています。これはハンドル位置が拳一個分以上低くなることを意味します。
さらに、ロードバイクのSCULTURA ENDURANCE(スタック584mm)と比較しても15mm低く、純粋なレーシングロードであるSCULTURA(スタック約557mm)と比較してもわずか12mm高いだけです。つまりMISSIONは、スペーサーを調整することで、ワールドツアーを走るプロロードレーサーとほぼ変わらない深い前傾姿勢をとることが可能なのです。
ホイールベースと旋回性能の関係
ホイールベース(前輪と後輪の車軸間の距離)はバイクの安定性と旋回性に直結します。MISSION(Mサイズ)のホイールベースは1013mmです。これはSILEXの1082mmと比較して69mmも短く設定されています。
長いホイールベースを持つSILEXは直進安定性に優れ、荷物を積載した状態でもふらつきにくいという特性を持ちますが、コーナーでの動きは緩慢になりがちです。対してMISSIONはロードバイク並みに短いホイールベースを持つことで、ライダーの入力に対して即座に反応する「キビキビとした」ハンドリングを実現しています。集団内での位置取り争いや、障害物を瞬時に避ける必要があるレースシーンにおいて、この反応性は大きな武器となります。
BBドロップと安定性のバランス
MISSIONはBBドロップを大きく設定しています。これにより前傾姿勢をとりながらも、重心位置を下げることで不安定さを打ち消しています。ロードバイクに近いハンドリングを持ちながら、砂利道でタイヤが滑り出した際の挙動が穏やかでリカバリーしやすいのは、この低重心設計の恩恵です。
メリダ MISSIONと競合モデルとの比較
MISSIONが参入した「レーシンググラベル」のカテゴリーは、既に強力なライバルたちがひしめく激戦区です。主要な競合モデルとの比較を通じて、MISSIONを選ぶべき理由を明確にします。
Specialized Crux(スペシャライズド クラックス)との比較
Cruxは「世界最軽量のグラベルバイク」を標榜し、圧倒的な軽さとシンプルさで市場を席巻しています。Cruxは最大47mmという広いタイヤクリアランスを持ちながら、極限まで削ぎ落とされたフレームワークが特徴です。
しかし価格面ではMISSIONが優位に立ちます。Crux Comp(機械式GRX)の価格は約495,000円であり、MISSION 4000(約42万円)と比較して高価です。さらにMISSION 7000(93.5万円)と同等のDi2・カーボンホイール仕様をCruxで求めると、100万円を大きく超える価格帯となります。
また、Cruxはシクロクロスバイクを出自としているためBB位置が高く、重心が高めです。これに対しMISSIONは低重心設計による「張り付くような安定感」を特徴としており、長時間の高速巡航における疲労軽減という点ではMISSIONに分があると言えます。
Canyon Grail(キャニオン グレイル)との比較
CanyonのGrail(第2世代)は、MISSIONの最も直接的なライバルです。エアロダイナミクスを重視し、ダウンチューブストレージなどのギミックを搭載したハイテクバイクです。
Canyonはメーカー直販(D2C)モデルであるため、車体価格自体は非常に競争力があります。しかし、専用設計のハンドルバーやパーツが多く、ポジション調整やパーツ交換の自由度が低いという側面があります。
対してMISSIONは汎用的な規格(27.2mmシートポスト、一般的なステムクランプ径など)を採用している部分が多く、特にMISSION 4000やフレームセットからの組み上げにおいて、ユーザー自身によるカスタマイズの自由度が高い点が魅力です。また、日本国内のMERIDA SHOPでの対面販売・サポートが受けられる安心感は、メンテナンスに不安のあるユーザーにとって大きな決定打となります。
Giant Revolt Advanced(ジャイアント リボルト)との比較
GiantのRevoltはリアエンドの「フリップチップ」によってホイールベースを変更できる機能や、振動吸収性に優れた「D-Fuse」テクノロジーを持つ万能機です。
Revoltは「快適性」と「走破性」のバランスが非常に高いレベルでまとまっていますが、MISSIONほどの「レーシングな鋭さ」は希薄です。RevoltはどちらかといえばSILEXとMISSIONの中間に位置するバイクであり、1台で何でもこなしたいユーザーには最適ですが、ロードバイクのような疾走感を最優先するユーザーにとっては、MISSIONのソリッドな乗り味の方が好ましく感じられるでしょう。価格帯はRevolt Advanced 2が約38万円とMISSION 4000と競合しますが、空力性能と見た目のアグレッシブさではMISSIONが勝ります。
海外レビューから読み解くMISSIONの実走性能
海外の主要自転車メディアによる先行レビュー記事から、MISSIONの実際の走行フィールを分析します。
「もっと速く走れ」と急かされる感覚
多くのテスターがMISSIONに乗ると自然とペダルを踏む力が強くなり、速度を上げたくなる衝動に駆られると報告しています。これはフレームの高いねじれ剛性がペダリングパワーをロスなく推進力に変えている証拠です。SILEXのような「ゆったりと景色を楽しむ」雰囲気はなく、常に戦闘モードであることをライダーに意識させるバイクです。登坂においてもその軽量さと反応の良さから、シッティングでもダンシングでも軽快に標高を稼ぐことができます。
高速ダウンヒルでの絶対的な信頼感
低重心設計の効果は特に下り坂で顕著に現れます。時速40km、50kmという速度で砂利道を下る際、重心が高いバイクでは接地感が希薄になり恐怖を感じることがありますが、MISSIONは路面に吸い付くような安定感を見せます。タイヤがスライドし始めた際の挙動も唐突ではなくコントロール可能な範囲に留まるため、ライダーは自信を持ってコーナーに侵入することができます。
レーシングフレームながら意外な快適性
「レーシングバイク=乗り心地が悪い」という図式はMISSIONには必ずしも当てはまりません。もちろんSILEXのような快適さはありませんが、ナノマトリックス・カーボンと露出を長く取ったシートポストのしなりによって、路面からの微振動は効果的に減衰されています。大きな衝撃はライダー自身が処理する必要がありますが、長時間走行の疲労原因となる微細な振動はフレームがいなしてくれるため、結果として長く速く走ることができるのです。
MISSIONは日本のグラベルシーンに最適な選択肢となるか
MERIDA MISSIONの登場は、日本のグラベルロード市場においても大きな転換点となるでしょう。
日本のグラベル環境は、アメリカのような果てしなく続く平坦なダートロードとは異なり、急峻な山岳地帯にある林道や、そこに至るまでの長い舗装路のアプローチが特徴です。つまり日本のライダーにとって、舗装路をロードバイクのように快適にこなし、そのまま林道に突入してアグレッシブに走ることができるMISSIONの特性は、実は非常に理にかなっているのです。
「SILEXでは物足りないが、ロードバイクでは行けない道がある」「週末のグループライドで、舗装路区間でも仲間から遅れを取りたくない」「シクロクロスのような短時間の高強度ライドを、グラベルフィールドで楽しみたい」——こうしたニーズを持つライダーにとって、MERIDA MISSIONは唯一無二の回答となります。
33万円という現実的な価格で手に入るフレームセットから、93万円のドリームバイクまで、幅広い選択肢が用意されたMISSIONは、2026年シーズンの台風の目となることは間違いありません。メリダは「MISSION」という名の下に、グラベルロードを「旅の道具」から「速さの快楽」へと再定義しました。その真価をぜひ全国のMERIDA SHOPで確かめてみてください。


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