イタリアの名門コルナゴが2024年に発表した「Steelnovo(スチールノヴォ)」は、創業70周年を記念した特別なロードバイクです。現代のハイエンドロードバイク市場ではカーボンファイバーが主流となっていますが、コルナゴ Steelnovo 3Dプリントラグ コロンバス管は、伝統的なスチール素材に最先端の製造技術を融合させた画期的なモデルとして注目を集めています。このバイクの最大の特徴は、F1技術を応用した3Dプリント製のラグ(接合部品)と、老舗チューブメーカーであるコロンバスの専用カスタムチューブを組み合わせた革新的な構造にあります。単なる懐古趣味のレトロバイクではなく、油圧ディスクブレーキや完全内装ケーブルルーティングなど、最新のカーボンレーシングバイクと同等の規格を備えた「ハイパー・モダン・スチール」として、自転車産業における新たな可能性を示しています。

70年の歴史が生んだスチールの新時代
1954年、イタリア・ロンバルディア州カンビアーゴで、エルネスト・コルナゴが小さな工房を開いたその日から、ロードレースの歴史におけるコルナゴの伝説は始まりました。創業70周年という記念すべき節目である2024年に発表されたSteelnovoは、単なるアニバーサリーモデルの枠を超えた重要な意味を持っています。
プロジェクト名である「Steelnovo」は、「Steel(鋼鉄)」と「Nuovo(イタリア語で新しい)」を融合させた造語です。文字通り新しい鋼鉄の時代を予見させる名前であり、スチール素材のポテンシャルを現代の最先端製造技術によって再定義しようとするコルナゴの強い意志が込められています。
現代におけるスチールバイクは、一般的に「懐古趣味」や「ネオ・レトロ」といった文脈で語られることが多くなっています。細身のチューブ、水平なトップチューブ、そしてクラシックなパーツ構成が好まれる傾向にあります。しかし、Steelnovoが目指したのは、そのようなノスタルジーへの安住ではありませんでした。
開発チームが掲げたコンセプトは「Tradition meets Modernity(伝統と現代性の融合)」です。その具現化として、SteelnovoはT47規格のオーバーサイズボトムブラケット、完全内装化されたケーブルルーティング、油圧ディスクブレーキ、そして35mmという広大なタイヤクリアランスといった、最新のカーボンレーシングバイクと同等の規格をその身に宿しています。これは、スチールという素材が持つ過去の遺産としての側面と、最新技術によって引き出される未来の性能としての側面を、高次元で衝突・融合させた新たなカテゴリーの創出を意味しています。
コロンバスとの半世紀を超える絆
コルナゴ Steelnovo 3Dプリントラグ コロンバス管を構成する骨格、すなわちスチールチューブの供給元として選ばれたのは、コルナゴの歴史的盟友であるColumbus(コロンバス)です。両社の関係は単なる発注者と下請けの関係ではありません。
1980年代の名車「Master(マスター)」におけるジルコ加工(星型断面チューブ)の開発に象徴されるように、コロンバスはコルナゴの設計思想を実現するために専用の金型を製作し、独自のチューブプロファイルを供給し続けてきた歴史があります。この長年にわたるパートナーシップは、お互いの技術力を高め合う共鳴関係と呼ぶべきものです。
Steelnovoにおいて、コロンバスはこのモデル専用のカスタムチューブセットを開発しました。既製品のチューブセット(例えばSpiritやLifeなど)を流用するのではなく、後述する3Dプリントラグとの接合精度をミクロン単位で最適化しています。現代のロードバイクに求められる剛性と、スチール特有の官能的な乗り心地(バイブレーション・ダンピング特性)を両立させるための特別なチューニングが施されているのです。
このカスタムチューブは、軽量性と強度を高次元でバランスさせるために、部位ごとに肉厚を変化させたバテッド加工が施されています。負荷のかかる接合部付近は肉厚を厚くし、中央部は薄くすることで、不要な重量増を避けながらも必要な剛性を確保しています。コロンバス管の伝統的な製管技術と、最新の材料工学が結実した成果と言えるでしょう。
F1技術が自転車に降りてきた日
本プロジェクトにおける最大の技術的革新は、イタリア・モデナに拠点を置くAdditiva(アディティヴァ)とのパートナーシップにあります。モデナはフェラーリ、ランボルギーニ、マセラティなどが拠点を構える「モーターバレー」として知られており、世界最高峰の自動車工学と製造技術が集積する地域です。
Additivaは、F1をはじめとするハイエンド・モータースポーツ分野で部品製造を担う積層造形(Additive Manufacturing)のスペシャリストです。コルナゴが自転車業界の枠を超え、他産業の先端技術を取り入れたことは、Steelnovoが単なる自転車ではなく、イタリアの産業技術力を結集したショーケースであることを示しています。
この異業種間コラボレーションにより、従来のスチールフレーム製造では不可能だった複雑な形状と機能統合が可能となりました。モータースポーツで培われたトポロジー最適化の技術が、自転車のフレーム設計に応用されることで、強度を保ちながら重量を削減するという相反する要求を同時に満たすことができるようになったのです。
3Dプリントラグが実現した革命的軽量化
かつてのスチールフレーム製造の象徴であった「ラグ(継ぎ手)」は、鋳造(ロストワックス製法)やプレス加工によって作られ、ロウ付け溶接でチューブと結合されていました。これに対し、コルナゴ Steelnovo 3Dプリントラグ コロンバス管のラグは、金属粉末焼結積層造形(おそらくSLM方式)によって生成されています。
3Dプリンティング技術の導入がもたらした最大のメリットは、「内部構造の自由度」にあります。Steelnovoのラグは内部が中空(hollow)になるように設計されています。従来の鋳造ラグでは、中子(なかご)を用いたとしても複雑な中空構造を作るには限界があり、重量増が避けられませんでした。
しかし、3Dプリントであれば、応力分布解析(FEA)に基づき、負荷のかかる部位の肉厚を厚くし、そうでない部位を極限まで薄く、あるいは完全に空洞にするトポロジー最適化が可能となります。これにより、Steelnovoはオーバーサイズのスチールフレームでありながら、サイズ485の未塗装フレーム重量で約1,895gという、スチールとしては競争力のある重量を実現しています。
この重量は、ハイエンドカーボンフレームには及びませんが、スチール素材としては驚異的な軽さです。従来のラグドスチールフレームでは2,500g前後が一般的だったことを考えると、3Dプリントラグがもたらした革新性が理解できるでしょう。
複数の機能を一つに統合するインテグレーション設計
3Dプリントラグは、単なる接合部品としての役割を超え、複数の機能を一つの部品に統合(インテグレーション)しています。特にヘッドチューブ周辺のラグには、ケーブル内装のためのガイドラインや、ベアリングシートが一体成型されていると考えられます。
これにより、従来の細身のスチールチューブでは物理的に不可能だった「ケーブルのフル内装化」を実現しました。内装ケーブルは空力性能の向上だけでなく、フレームの美しいシルエットを保ち、悪天候時の泥や水からケーブルを保護するという実用的なメリットももたらします。
また、シートステイとシートチューブの接合部においては、シートクランプシステムそのものがラグと一体化されており、外観上の突起物を排除したクリーンなデザインを達成しています。Additivaの技術力により、これらの複雑な機構が100分の1ミリメートル以下の精度で出力され、チューブとの嵌合において完璧なフィッティングを保証しています。
従来のフレーム製造では、各パーツを個別に製造し、後から組み付けることが一般的でした。しかし、3Dプリント技術を用いることで、設計段階から複数の機能を一つのパーツに集約することができ、パーツ点数の削減、組み付け工程の簡略化、そして最終的な製品の信頼性向上につながっています。
見えない溶接が生み出すシームレスな美学
Steelnovoの外観上の大きな特徴は、スチールフレーム特有の溶接ビード(溶接痕)が一切見当たらない「シームレス」な仕上げにあります。3Dプリントされたラグとチューブは、接合後に高度なスムージング処理が施され、あたかもカーボンモノコックフレームのように滑らかに繋がっています。
この美しい仕上げを実現するために、製造プロセスにおいては、1本のフレームを完成させるために丸1日の作業時間を要するとされています。これは大量生産品とは対極にある、職人の手作業と最新のデジタルファブリケーションが融合した労働集約的なプロセスです。
年間生産数が(限定モデル以外も含め)400本に制限されている理由は、この丁寧な製造工程にあります。それぞれのフレームは、熟練した職人によって丁寧に仕上げられ、品質検査を経て出荷されます。この希少性こそが、Steelnovoをコレクターズアイテムとしての価値も高めている要因の一つです。
溶接痕を見せないデザインは、単なる美的追求だけでなく、応力集中を避けるという構造的なメリットもあります。滑らかな接合部は、亀裂の起点となりやすい鋭角な段差を排除し、フレームの長期的な耐久性向上にも寄与しているのです。
現代ロードバイクとしての緻密なジオメトリ設計
Steelnovoは、420から570まで、合計7つのサイズ展開を行っています。具体的には、420、455、485、510、530、550、570というサイズがラインナップされており、幅広い体格のライダーに対応しています。
ヘッドチューブ長は、サイズ420で106mm、455で117mm、485で135mm、510で153mm、530で172mm、550で192mm、570で213mmと推移します。これにより、サイズが上がるごとに適切なハンドル高を確保し、ライダーの快適性を維持しています。
チェーンステイ長は、サイズ420から510までは410mmで統一されており、反応性の良さを重視しています。一方、サイズ530から570では415mmへと延長され、大型サイズにおける安定性と重量バランスの適正化が図られています。この5mmの差は微細に思えるかもしれませんが、ハンドリング特性に大きな影響を与える重要な数値です。
BBドロップは、サイズ420と455は74mmと低重心化されていますが、485以上のサイズでは72mmに設定されています。この設定により、小型サイズでは敏捷性を、大型サイズでは踏み心地の良さを重視したバランスが取られています。
フォーク長とレイク(オフセット)は、全サイズでフォーク長は372mm、フォークレイクは43mmに統一されています。フロントセンターは、サイズ420の573mmから、最大サイズ570の626.5mmまで段階的に延長され、つま先と前輪の干渉(トゥ・オーバーラップ)を防ぎつつ、ホイールベースを適正化しています。
このジオメトリは、コルナゴが「モダンなジオメトリ」と称するように、純粋なレーシングバイクの俊敏さと、長距離ライドにおける安定性をバランスさせた設計となっています。レースで秒を削るだけでなく、週末の長距離サイクリングでも快適に走れる、オールラウンドな性能を目指していることが数値から読み取れます。
最新規格への完全対応が示す未来志向
Steelnovoは、スチールフレームでありながら最新の周辺機器規格に完全対応しています。まず、T47ボトムブラケットは、シェル幅68mmまたは86mmのT47ねじ切りBBを採用しています。これにより、30mmアクスルのような高剛性クランクの使用が可能となり、パワー伝達効率が向上しています。
T47規格は、従来のBSA規格よりも大きな内径を持ち、クランクアクスルの太さに対応できるだけでなく、ねじ切り式であるため圧入式BBの音鳴り問題からも解放されます。これは長期的なメンテナンス性の向上にもつながる重要な選択です。
リアディレイラーハンガーには、SRAMが提唱するUDH(Universal Derailleur Hanger)規格を採用しています。将来的なコンポーネントの載せ替えや補修部品の入手性において、ユーザーに大きなメリットをもたらします。万が一転倒してハンガーが曲がってしまった場合でも、世界中どこでも同じ規格の交換部品を入手できるという安心感があります。
タイヤクリアランスは、最大35mm(プラス4mmのクリアランス)まで対応しています。これは、近年のロードバイクにおけるワイドタイヤ化のトレンドに完全に対応するものであり、舗装路だけでなく、多少の荒れた路面までカバーするオールロード的な運用も視野に入れています。
28mmタイヤを装着すれば軽快なロードバイクとして、35mmタイヤを装着すればグラベルバイク的な使い方も可能です。一台のバイクで複数の用途をカバーできる柔軟性は、現代のサイクリストにとって非常に魅力的な特性と言えるでしょう。
限定70台のセッタンタと通常ラインナップ

創業70周年を記念して製造されたのが、わずか70台限定の「Steelnovo Settanta(セッタンタ)」です。「Settanta」はイタリア語で「70」を意味します。このモデルには、特別な塗装、イタリア国旗をあしらったカスタムパーツ、シリアルナンバーなどが付与されます。
完成車価格で約17,500ユーロ(税抜約14,344ユーロ)、日本円換算で約300万円クラスの超高額モデルです。仕様としては、Campagnolo Super Record Wirelessの特別仕様コンポーネントがアッセンブルされ、細部に至るまでイタリアンメイドへのこだわりが貫かれています。
限定のシルバーカラー(Settanta)以外にも、Steelnovoは継続的なモデルとして展開されています。限定版のシルバーは完売した可能性がありますが、Light Blue(ライトブルー)とPastel Orange(パステルオレンジ)という2つのカラーウェイがラインナップされています。
これらのカラーは、クラシックなスチールバイクのイメージを現代的に解釈したもので、どちらもエレガントで落ち着いた色調です。フレームセット単体での販売価格は5,500ユーロからとされており、完成車に比べて(依然として高価ではあるが)現実的な選択肢が用意されています。納期は約60日とされており、オーダーを受けてから製造する受注生産に近い体制が取られているようです。
カンパニョーロ最高峰コンポーネントとの組み合わせ
Steelnovoの完成車(特にSettantaおよびハイエンドビルド)には、イタリアンブランドを中心とした最高級コンポーネントが採用されています。メインコンポーネントには、Campagnoloの最新フラッグシップである「Super Record Wireless(12スピード)」が採用されています。
特筆すべきはギア構成です。フロントチェーンリングには48/32Tという、プロレース仕様(53/39Tなど)よりもコンパクトな構成が選択肢に含まれています。これは、このバイクのターゲット層が、レースで秒を削るアスリートだけでなく、ラグジュアリーなサイクリングを楽しむ層であることを反映しています。
リアカセットは10-29Tなどが用意され、幅広い地形に対応します。山岳地帯でも無理なく登れるギア比が用意されているため、ヒルクライムイベントへの参加や、アルプスなどのヨーロッパの名峰を訪れる際にも対応できます。
また、コンポーネント自体にもイタリア国旗やカスタムグラフィックが施され、フレームとの一体感を高めています。Campagnoloのワイヤレス電動変速は、動作の確実性と美しいデザインで高い評価を得ており、Steelnovoの格調高い雰囲気に完璧にマッチしています。
ホイールとタイヤで完成する最高のエコシステム
ホイールには、Campagnolo Bora Ultra WTO 45 Discが採用されています。空力性能、剛性、重量のバランスに優れた45mmハイトのカーボンホイールであり、スチールフレームの細身のシルエットに対して適度なボリューム感を与え、視覚的なバランスを整えています。
Boraシリーズは、プロレースの現場でも使用される実績のあるホイールです。45mmというリムハイトは、平地での空力性能と、横風時の安定性のバランスが良く、オールラウンドに使える設定として多くのライダーに支持されています。
タイヤには、Pirelli(ピレリ)P Zero Race TLRが装着されます。タイヤサイズは28mmまたは30mmが標準装備されると思われますが、フレーム自体は35mmまで許容するため、さらに太いタイヤへの換装も可能です。
Pirelliは、F1タイヤの公式サプライヤーとしても知られるイタリアのタイヤメーカーです。自転車用タイヤにおいても、モータースポーツで培われたコンパウンド技術が投入されており、グリップ力と転がり抵抗の低さを両立させています。チューブレスレディ(TLR)仕様であるため、パンクリスクの低減と乗り心地の向上が期待できます。
ハイエンドカーボンバイクと同じコックピット
ハンドルバーには、Colnagoのハイエンドカーボンバイク(C68やV4Rs)と同じCC.01 インテグレーテッドコックピットが採用されています。ステムとハンドルが一体化したこのカーボン製ハンドルは、空力性能に優れ、ケーブル類を完全に内部に隠すことができます。
クラシックなスチールフレームに、この未来的なハンドルを組み合わせるという大胆な異種混合こそが、Steelnovoのデザイン哲学を象徴しています。伝統と革新を融合させるというコンセプトが、フレームだけでなく、コックピット選択にも反映されているのです。
インテグレーテッドコックピットは、従来の分離型ステム・ハンドルに比べて、ケーブルの取り回しが美しく、空気抵抗も低減できます。ただし、ポジション調整の自由度は若干制限されるため、購入前のフィッティングが重要になります。
その他、サドルにはBrooks Cambium C13が採用されています。Brooksは1866年創業の英国の老舗サドルメーカーで、Cambiumシリーズはクラシックなレザーサドルの伝統を現代的な素材で再解釈したモデルです。スチールフレームの伝統的な雰囲気に調和しつつ、現代的な快適性を提供します。
スルーアクスルやボルト類には、Carbon-Ti製のカスタムパーツが採用され、細部に至るまでイタリアンメイドへのこだわりが貫かれています。Carbon-Tiは、チタンとカーボンを組み合わせた超軽量パーツで知られるイタリアのブティックブランドです。
市場における唯一無二のポジショニング
価格帯(フレームセット5,500ユーロ、完成車17,500ユーロ)を考慮すると、Steelnovoの競合は一般的な量産ロードバイクではありません。競合となるのは、Speedvagen(アメリカ)、Mosaic(アメリカ)、Pegoretti(イタリア)などの、オーダーメイドのスチールまたはチタンバイクです。
また、Specialized S-Works Aethosの限定版や、Pinarello Dogmaの特別塗装モデルといった、ラグジュアリー限定モデルとも競合します。しかし、Steelnovoの強みは、「コルナゴ」という圧倒的なブランド力と、「3Dプリントラグ」という明確な技術的差別化要因にあります。
ハンドメイドビルダーの作品が「職人の手仕事」を売りにするのに対し、Steelnovoは「伝統と最先端テクノロジーの融合」を物語として提供しています。この物語性は、単なる性能や美しさを超えた、所有する喜びを生み出します。
また、コルナゴというブランドが持つロードレースの歴史(エディ・メルクス、ジュゼッペ・サロンニ、タデイ・ポガチャルなど、数々の伝説的チャンピオンがコルナゴに乗って勝利を収めてきた)も、Steelnovoの価値を高める重要な要素です。
期待されるライド・クオリティ
現時点において詳細な長期インプレッション記事は少ないですが、設計と素材からその乗り味を推測することは可能です。スチール(コロンバス・カスタムチューブ)特有の振動吸収性と「バネ感(ウィップ)」は、ライダーに路面情報を豊かに伝えつつも、不快な衝撃をカットする「タイムレスな乗り心地」を提供すると期待されます。
スチール素材は、カーボンに比べて重量では劣りますが、しなやかさと粘り強さという独特の特性を持っています。急激な衝撃に対しては柔軟に吸収し、ペダルを踏み込んだ時には適度にたわんで、まるでバネのように推進力を生み出します。この感覚は、「生きている」とすら表現されることがあります。
一方で、T47 BBやテーパードヘッド、スルーアクスル、そして3Dプリントラグによる強固な接合により、かつてのスチールバイクのような「柔らかすぎる」感覚は排除され、現代的な剛性感と反応性を備えているはずです。
インターネット上のコミュニティでは「床の間バイク(鑑賞用)」と揶揄されることもありますが、スペック上はグラベルに近い路面まで走破できるタフさを備えており、所有者がその気になれば、極めて贅沢な全天候型エンデュランスバイクとして機能するでしょう。
スチールバイクの未来を切り拓く技術遺産
コルナゴ Steelnovo 3Dプリントラグ コロンバス管は、懐古主義的な復刻モデルではなく、スチールという素材を現代の文脈で再解釈した野心作です。Additivaとの協業による3Dプリントラグ技術は、スチールフレームの設計自由度を飛躍的に高め、軽量化、インテグレーション、そして剛性コントロールにおいて、従来の製法では到達できなかった領域へと踏み込みました。
技術的意義として、3Dプリント技術が、プロトタイピングだけでなく、最終製品(しかも自転車フレームという動的な応力がかかる構造体)の量産に本格的に導入された成功例として、自転車産業史に残るでしょう。この技術は、今後他のブランドやビルダーにも影響を与え、スチールフレームの新たな可能性を示す指標となるはずです。
文化的意義として、カーボン全盛の時代において、「鉄」の価値を再提示し、速さや軽さだけではない「感性性能」や「物語性」という価値基準をハイエンド市場に投げかけました。自転車は単なる移動手段やスポーツ器具ではなく、芸術作品であり、文化的アイコンでもあるという認識を、改めて世界中のサイクリストに思い起こさせたのです。
年間生産数400本という希少性、そして超高額な価格設定は、このバイクが選ばれた少数の愛好家のためのものであることを意味します。しかし、Steelnovoで培われた「3Dプリントラグとチューブの接合技術」や「異素材のハイブリッド設計」は、将来的により手の届きやすいモデルや、チタンなど他の金属素材を用いたモデルへと波及する可能性を秘めています。
Steelnovoは、コルナゴの過去70年を祝うと同時に、次の70年に向けた「金属フレームの逆襲」の狼煙(のろし)とも言える存在です。2024年に誕生したこのバイクは、自転車産業における素材と製造技術の新たな地平を切り拓き、未来のバイクデザインに大きな影響を与え続けるでしょう。


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