Cervélo S5は本当に最速?2026新型R5との違いを徹底比較

ロードバイク

Cervélo S5は、2025年現在において市場で最も空気抵抗の少ないエアロロードバイクの一つとして評価されています。一方、2026年モデルとして登場した新型Cervélo R5は、フレーム重量わずか651gという驚異的な軽さを実現し、軽量クライミングバイクの新基準を打ち立てました。本記事では、最速のエアロロードであるS5と、革新的な軽量バイクR5の両モデルを徹底比較し、それぞれの特性や選び方について詳しく解説します。

ロードバイク市場は現在、エアロロードと軽量クライミングバイクの境界線がかつてないほど曖昧になる時代を迎えています。多くのメーカーが「一台ですべてをこなす」オールラウンダー化を進める中で、Cervéloは「エアロのS5」と「軽量のR5」という二つの異なる頂点を維持し、それぞれを極限まで尖らせる戦略をとっています。Team Visma | Lease a Bikeのヨナス・ヴィンゲゴーやワウト・ファン・アールトといった世界トップクラスの選手たちが、この二台をどのように使い分けているのかを知ることで、あなた自身のバイク選びの参考になるはずです。

Cervéloとは:スピードを追求し続けるブランドの歴史

Cervéloは、1995年にカナダ・モントリオールでジェラルド・ブルーメンとフィル・ホワイトという二人のエンジニアによって設立されたロードバイクブランドです。創業当初から「既存の常識」ではなく「物理法則」を基準としたバイク作りを行ってきたことが、このブランドの最大の特徴となっています。

Cervéloが開発したタイムトライアルバイク「Baracchi」から始まり、現代のエアロロードの始祖とも言える「Soloist」の誕生に至るまで、同社の歴史は空気抵抗との戦いの歴史そのものでした。2000年代初頭、ロードバイクのフレームといえば丸パイプが常識であり、エアロダイナミクスはタイムトライアル専用の技術だと考えられていた時代に、Cervéloは「ロードレースの大部分において、選手は風と戦っている」という事実に着目しました。その結果生まれたアルミ製エアロロードバイク「Soloist」は、ロードバイク史における転換点となりました。

その後、カーボン素材を用いた「Soloist Carbon」を経て、より洗練された「S2」「S3」へと進化し、2011年には初代「S5」が登場しました。初代S5は、リアホイールに沿ってカットされたシートチューブや、ボトル装着時の空力まで考慮された極太のダウンチューブなど、TTバイクの設計思想をそのままロードバイクに持ち込んだ革命的なモデルでした。

Cervélo S5の特徴:2025年モデルが最速と言われる理由

乱流を支配するフレーム設計とVステムの革新性

2025年モデルとして市場に君臨するCervélo S5は、単なる「空気抵抗の少ない自転車」ではありません。ライダー、フレーム、コンポーネント、そして周囲の気流を含めた「システム全体」として設計された、究極のエアロロードバイクです。UCI(国際自転車競技連合)のレギュレーション緩和を最大限に活用し、フレーム造形はかつてないほど攻撃的なものとなっています。

S5のアイコンとも言えるV字型ステム(V-Stem)は、見た目のインパクトのためだけに存在するのではありません。従来のステム構造では、ハンドルバー上部を流れる空気がステムの後方で剥離し、乱流を生み出していました。この乱流はライダーの脚部へと流れ込み、ペダリングの抵抗となっていたのです。S5のVステムは、この空気をステムの「間」に通すことで高圧部の発生を防ぎ、トップチューブ上部へとスムーズに整流する仕組みになっています。この独自の気流制御により、ライダーを含めたトータルの空気抵抗を大幅に削減することに成功しています。

さらに2025年モデルでは、フロントフォークとヘッドチューブの設計も進化しました。フォークレッグとヘッドチューブの奥行き(コード長)が拡大され、より翼断面に近い形状となっています。これはUCIの新規定によって許容された形状であり、Cervéloはいち早くこれを取り入れました。結果として、旧モデルと比較して時速48km走行時に6.3ワットもの空気抵抗削減を実現しています。プロレースの世界では、わずか数ワットの差が勝敗を決定づけることを考えると、この数値がいかに大きいかがわかります。

Reserve 52|63ホイールセットと「Turbulent Aero」の概念

S5の速さを語る上で欠かせないのが、姉妹ブランドであるReserve(リザーブ)と共同開発された「Reserve 52|63」ホイールセットです。このホイールは「Turbulent Aero(乱流エアロ)」という概念に基づいて設計されています。実際の走行環境では、風は常に前方から吹くわけではなく、様々な角度(ヨー角)から吹き付けます。Reserve 52|63は、こうした実走行環境での空力性能を最適化するために開発されました。

このホイールセットは、フロントに52mmハイト、リアに63mmハイトという前後異径のリムを採用しています。フロントホイールは横風の影響を受けやすいため、リムハイトを抑えつつ幅を広くすることで、失速(ストール)を防ぎ、ハンドリングの安定性を確保しています。インナー幅は25.4mmと広めに設計されており、28mm以上のタイヤを装着した際に最適なエアロ形状を形成します。一方、リアホイールは63mmというディープリムを採用し、フレームのシートチューブおよびシートステーが生み出す整流効果と連動して、空気の剥離を最小限に抑えます。このホイールセット単体で、従来の組み合わせよりも約5ワットの節約を実現し、さらに失速状態からの回復力を劇的に向上させています。

S5の走行インプレッション:プロが認める圧倒的な速さ

実際にS5に跨ったライダーたちが口を揃えて言うのは、「板の上に乗っているような剛性感」と「勝手に速度が伸びる感覚」です。S5の真骨頂は、時速40kmを超えてからの巡行性能にあります。ペダルに入力したパワーが一切のロスなく推進力に変換される感覚は、他のエアロロードと比較しても別格とされています。

Y’s Road大阪本館のスタッフによる試乗レポートでは、「踏めば踏んだ分だけ進む」「一枚の板に乗っているような感覚」と表現されています。特に下り坂では、ペダリングを止めてもバイクが加速していくような錯覚に陥るほど、空気を切り裂く性能が高いことが報告されています。これは、フレームの随所に施されたエアロダイナミクス処理と、Reserveホイールの乱流制御効果が見事に機能している証拠と言えるでしょう。

「エアロロードは硬くて乗り心地が悪い」という定説は、S5においても完全には否定できません。S5のフレーム、特にBB周りとヘッド周りの剛性は極めて高く設定されています。これは、ワウト・ファン・アールトのようなスプリンターが2000ワット近いパワーでスプリントしてもフレームがヨレないようにするためです。しかし、2025年モデルではタイヤクリアランスが実測で34mmまで拡大されており、28mm〜30mm幅のチューブレスタイヤを低圧で運用することで、路面からの微振動を吸収し、快適性を担保する設計になっています。フレーム自体は縦方向に硬いものの、タイヤのエアボリュームで快適性を調整するというのが、現代のエアロロードの最適解となっています。

2026年新型Cervélo R5の革新:軽量クライミングバイクの新基準

フレーム重量651gという驚異的な軽さの秘密

2026年モデルとして発表された新型R5は、軽量バイクの歴史を塗り替える一台となっています。Team Visma | Lease a Bikeの選手たち、特に山岳王ヨナス・ヴィンゲゴーからのフィードバックを色濃く反映して開発されたこのバイクは、「軽さ」と「ハンドリング」の新たな基準を提示しています。

新型R5の最大のトピックは、その驚異的な重量です。サイズ56のフレーム重量はわずか651g、フォークは298gと発表されています。SRAM RED AXSやDura-Ace Di2で組み上げた完成車重量は5.97kgに達し、UCIの最低重量制限である6.8kgを大幅に下回ります。プロ選手がレースで使用する際は、ウェイトを追加して6.8kgに調整しなければならないほどの軽さです。

この軽量化は、特定のパーツを軽くしただけではなく、フレームの各部をミリ単位で見直し、積層(レイアップ)を最適化することで達成されました。具体的には、シートポストクランプの刷新が挙げられます。従来の複雑なクランプ機構を見直し、シンプルかつ軽量な構造に変更することで数グラムを削減しています。また、フォーク先端のブレーキマウントやスルーアクスルの受け部分から不要な金属パーツを排除し、カーボン一体成形とすることで軽量化を図っています。さらに、チームカラーを含め、塗装の厚みを極限まで薄くすることで、塗料による重量増さえも抑制するという徹底ぶりです。

S5とジオメトリーを統合した戦略的進化

新型R5のもう一つの大きな変更点は、ジオメトリー(フレーム設計寸法)の変更です。従来、RシリーズはSシリーズに比べてスタック(ハンドルの高さ)が高く、リーチ(ハンドルの遠さ)が短い、ややアップライトな設計がなされていました。しかし、プロ選手たちはS5とR5をステージによって乗り換える際、ポジションの違和感を嫌っていました。

これを受け、2026年モデルのR5は、S5とほぼ同一のフィット・ジオメトリーを採用しました。具体的には、スタックを低くし、より攻撃的でエアロなポジションが取れるように設計変更されています。これにより、ヴィンゲゴーのような選手は、平坦ステージでS5、山岳ステージでR5に乗り換えても、全く同じポジショニングでペダリングすることが可能になりました。

また、新型R5にはS5の開発で培われたノウハウを活かした一体型ハンドルバー「HB18」が採用されています。このハンドルバーは軽量化を最優先しつつも、ケーブル類のフル内装に対応しており、空力性能も向上させています。従来のR5ではハンドル周りの剛性が課題となることもありましたが、HB18は軽量ながらも十分な剛性を確保しており、ダンシング時の振りの軽さとダイレクトな操作感を両立しています。

R5の走行インプレッション:重力を忘れる軽快感

新型R5の乗り味は、「バネ」のような反応性と表現されます。漕ぎ出しの軽さが際立ち、信号待ちからのスタートや、激坂でのアタックにおいて、バイクの重量を感じさせない軽快な加速を見せます。ハンドリングは非常にニュートラルかつ俊敏で、ダンシングでバイクを振る際、その軽さゆえに「ヒラヒラ」と舞うような感覚で操作できます。

特筆すべきは、フレームの細身のシートステーが高い振動吸収性を発揮することです。長時間のライドでも疲労が蓄積しにくく、グランフォンドや獲得標高の多いロングライドにおいて真価を発揮します。S5が「剛」のバイクであるならば、R5は間違いなく「柔」と「剛」を絶妙にバランスさせたバイクと言えるでしょう。

S5とR5のスペック比較:数値で見る両モデルの違い

Cervélo S5(2025年モデル)と新型R5(2026年モデル)の主要スペックを比較すると、両者の性格の違いが明確になります。以下の表は、サイズ54および56を基準にした比較データです。

項目S5(2025)R5(2026)
フレーム重量(サイズ56)約1,000g651g
フォーク重量約400g298g
完成車重量目安7.4〜7.6kg5.97kg
スタック(サイズ54)542mm544.6mm
リーチ(サイズ54)384mm383.3mm
チェーンステー長405mm410mm
BBドロップ70mm74mm
タイヤクリアランス最大34mm最大30mm
主な用途平坦・スプリントクライミング・山岳

この表からわかるように、S5とR5ではフレーム重量に約350gもの差があります。完成車で換算すると約1.5kg以上の差となり、これは山岳ステージにおいて無視できない重量差です。一方、ジオメトリーに関してはスタックとリーチがほぼ同一に設定されており、プロ選手がステージごとにバイクを乗り換えても違和感なくポジションを再現できるよう配慮されています。

チェーンステー長の違いも注目すべきポイントです。S5は405mmと短く設定されており、高い反応性とクイックなハンドリングを重視しています。対してR5は410mmとやや長く、急勾配の登りや荒れた路面でのトラクションと安定性を重視した設計となっています。BBドロップについても、R5は74mmとS5より4mm低く設定されており、軽量で車体が暴れやすいR5において重心を下げることで安定性を確保する設計思想が読み取れます。

プロ選手の使い分けから学ぶバイク選択の考え方

Team Visma | Lease a Bikeの運用を見ると、S5とR5の役割分担が明確に見えてきます。この使い分けは、一般ライダーがバイクを選ぶ際の参考にもなります。

ワウト・ファン・アールトは、シーズンのほぼ全てのレースでS5を使用しています。クラシックレースの石畳(パヴェ)であっても、彼はエアロ効果と高い剛性を優先してS5を選択します。パリ〜ルーベのような過酷なレースでは、タイヤ幅を30mm〜32mmに広げることで快適性を確保しています。彼の圧倒的なパワーを受け止めるには、S5の剛性が不可欠なのです。

一方、ヨナス・ヴィンゲゴーはステージによって明確に使い分けます。平坦や丘陵ステージでは空気抵抗を削減してエネルギーを温存するためにS5を使用しますが、勝負所となる超級山岳ステージでは、迷わずR5を選択します。特に登りゴールでは、数百グラムの重量差と反応の良さが勝敗を分けるため、R5の軽さが不可欠となります。2026年モデルでR5のジオメトリーがS5と統合されたことは、この乗り換え戦略をよりスムーズにするための必然的な進化だったと言えます。

S5と競合エアロロードとの比較

Specialized Tarmac SL8との違い

Specialized Tarmac SL8は「エアロと軽量の融合」を掲げ、一台ですべてをこなすオールラウンダーを目指しています。S-Worksフレームは約685gと非常に軽量で、完成車でも6.6kg台を狙えます。これはエアロロードとしては驚異的な軽さであり、登りを含むコースではTarmac SL8に分があると言えます。

しかし、コンセプトにおいてS5は「純粋なエアロロード」としての性能を突き詰めています。S5はフレーム重量が1000g近くありますが、完全な平坦路での巡航速度維持やスプリント時の絶対的な剛性感では、S5の特異な形状が生み出すエアロ効果が上回ると評価されています。風洞実験データやTour誌のテストにおいても、S5は依然として市場で最も空気抵抗の少ないロードバイクの一つとしての地位を保っています。

Trek Madone Gen 8との違い

Trek Madone Gen 8は「IsoFlow」という独自のテクノロジーを採用し、空力と快適性を両立させています。また、前作(Gen 7)から大幅に軽量化され、Tarmac SL8に迫る軽さを手に入れました。S5と比較すると、Madoneの方が登坂性能とエアロ性能のバランスが良い「オールラウンダー寄り」の性格を持っています。

乗り心地に関しては、可動ギミックを持たないS5はダイレクト感が強く、路面情報をリニアに伝えます。対してMadoneはIsoFlowによる振動減衰効果があり、乗り心地の「角の取れた」感覚が優位です。しかし、スプリンターが求める爆発的な加速感においては、ソリッドな構造を持つS5に軍配が上がると感じるライダーも多いとされています。

R5と競合クライミングバイクとの比較

Specialized Aethosとの違い

Specialized Aethosは「レースのレギュレーションに縛られない、純粋な走る喜び」をテーマに開発され、市販最軽量クラスとなるフレーム585gを誇ります。一方、R5はあくまで「UCIレースで勝つためのクライミングバイク」として開発されています。

最大の違いは剛性バランスにあります。R5はプロのスプリントに耐えうるBB剛性を持っていますが、Aethosは一般ライダーが楽しめる適度な剛性感(ウィップ感)を重視しています。レースで勝利を目指すシリアスレーサーにはR5、ロングライドや趣味のライドで最高の上り体験を求めるライダーにはAethosが適していると言えます。R5は「速さ」のために軽く、Aethosは「楽しさ」のために軽い、という哲学の違いが見て取れます。

メンテナンス性と独自規格について知っておくべきこと

Cervéloのバイク、特にS5は独自規格の塊です。これが性能の源泉である一方で、ユーザーにとってはメンテナンスのハードルとなることがあります。購入前に理解しておくべきポイントを解説します。

S5のVステムの調整は、専用のスペーサーを使用する必要があります。通常のステムのように簡単に上下させることはできず、適切な長さのボルトとスペーサーを用意して組み替える必要があります。また、ハンドルバーの角度調整も可能ですが、構造が複雑であり、基本的にはショップでの作業が推奨されます。

内装ルーティングに関しても、S5、R5ともにケーブル類はフル内装です。特にS5のハンドル〜ステム〜ヘッドチューブを通るルートは非常にタイトであり、油圧ホースの交換やハンドルの交換作業は高度な技術を要します。メカニックの腕が試されるバイクと言えるでしょう。これらの点を踏まえ、購入後のメンテナンスは信頼できるプロショップに依頼することをお勧めします。

あなたに合うのはS5とR5のどちらか:選び方のポイント

Cervélo S5(2025年モデル)と新型R5(2026年モデル)は、ロードバイクの進化における二つの頂点を示しています。どちらを選ぶべきかは、あなたの走り方や目的によって決まります。

S5を選ぶべきライダーは、平坦なサイクリングロードを疾走することが多く、クリテリウムやロードレースでスプリント勝利を狙う方です。S5の速さは、実力を一段階引き上げてくれるでしょう。ペダルを踏み込んだ瞬間の剛性感と、高速域での伸びやかな加速は、他のバイクでは味わえない特別な体験です。また、トライアスロンや単独での高速巡航を楽しみたい方にもS5は最適な選択となります。

R5を選ぶべきライダーは、峠道を求めて週末ごとに山へ向かい、グランフォンドや長距離の獲得標高に挑戦する方です。R5の軽さと快適性は、ライドの後半で脚を残してくれるはずです。そして何より、ダンシングでバイクを振った時のあの軽快感は、登ることの喜びを再認識させてくれるでしょう。ヒルクライムレースで表彰台を目指す方にとっても、R5は最高のパートナーとなります。

どちらを選んだとしても、Team Visma | Lease a Bikeの選手たちが証明している通り、世界最高峰の性能を手に入れることに変わりはありません。Cervéloのバイクは、ライダーの限界を押し広げ、まだ見ぬスピードの世界へと誘ってくれるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました