カンパニョーロが経営危機に陥った原因は、ポストコロナの需要急減による在庫過剰、シマノ・SRAMとの競争激化、そしてラグジュアリー路線への過度な傾倒による市場シェア喪失という複合的要因にあります。2024年末に明らかになった同社の財務状況によれば、過去3年間で約2,400万ユーロ(約43億円)もの累積損失を計上し、従業員の40%にあたる約120名の解雇を余儀なくされました。この記事では、イタリアの名門コンポーネントメーカーがなぜここまで追い込まれたのか、市場環境の変化から内部戦略の失敗まで、その全貌を詳しく分析していきます。90年以上にわたりロードレースの歴史を支えてきたカンパニョーロの危機は、自転車業界全体の構造変化を映し出す鏡でもあります。

- カンパニョーロとは何か:イタリアが誇る名門コンポーネントメーカーの歴史
- 財務危機の実態:2,400万ユーロの損失と流動性の枯渇
- リストラ計画の衝撃:従業員40%削減という「代替案なき決断」
- カンパニョーロ経営危機の原因その1:ポストパンデミックの「ブルウィップ効果」
- カンパニョーロ経営危機の原因その2:原材料費高騰と為替リスク
- カンパニョーロ経営危機の原因その3:シマノとSRAMによる市場支配
- カンパニョーロ経営危機の原因その4:「スポーツ・ラグジュアリー」戦略の失敗
- カンパニョーロ経営危機の原因その5:「親指シフト」廃止に象徴される製品開発の迷走
- 製品別に見るカンパニョーロの課題:Ekarの信頼性問題
- Super Record Wirelessが市場で苦戦する理由
- HPPMパワーメーター:遅すぎた参入の代償
- 生産拠点の海外移転をめぐる議論:イタリアとルーマニアの役割分担
- カンパニョーロ再生への希望:ミドルレンジ市場への回帰
- 2025年のワールドツアー復帰:コフィディスとの提携
- カンパニョーロは生き残れるのか:2025年の展望と自転車業界への示唆
カンパニョーロとは何か:イタリアが誇る名門コンポーネントメーカーの歴史
カンパニョーロの経営危機を理解するためには、まずこのブランドが自転車界においてどれほど特別な存在であったかを知る必要があります。カンパニョーロ(Campagnolo S.r.l.)は、イタリア北東部のヴィチェンツァに本社を構える自転車コンポーネントメーカーです。創業者のトゥーリオ・カンパニョーロは、サイクリスト自身でもあり、1930年代に「クイックリリース」を発明したことで知られています。クイックリリースとは、工具を使わずに素早くホイールを着脱できる機構のことで、この発明は現代の自転車においても標準装備となっている革命的な技術でした。
その後もカンパニョーロは、変速機やブレーキシステムなど、ロードバイクの心臓部とも言えるコンポーネントを次々と開発し、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアといったグランツールで数々の勝利を支えてきました。長年にわたり、カンパニョーロはシマノ(日本)、SRAM(アメリカ)と並んで「コンポーネント御三家」と呼ばれ、特にヨーロッパのロードレース界では絶大なブランド力を誇っていました。
しかし2024年の暮れ、その名門ブランドに激震が走りました。イタリア現地紙『Il Gazzettino』をはじめとする複数のメディアが、カンパニョーロがかつてない規模の経営危機に直面していることを報じたのです。
財務危機の実態:2,400万ユーロの損失と流動性の枯渇
カンパニョーロの財務状況が深刻であることを示す数字として、まず挙げられるのが過去3年間で約2,400万ユーロ(約43億円)という累積損失です。この損失は2023年度、2024年度、そして2025年5月31日までの会計年度にわたって計上されました。自転車コンポーネント市場は確かに巨大ですが、カンパニョーロのようにハイエンド層に特化した企業にとって、この規模の赤字は企業存続を脅かすレベルと言えます。
特に深刻なのは「流動性の欠如」という問題です。流動性とは、企業が日々の事業運営に必要な現金をどれだけ保有しているかを示す指標のことです。同社の声明によれば「現在の条件下では事業の継続性を保証するのに十分な流動性がない」とされており、これはサプライヤーへの支払いや従業員への給与支払いが滞るリスクが現実味を帯びていることを意味しています。
この危機に対して株主は資金注入を試みました。2024年11月から2025年12月にかけて1,000万ユーロ(約16億円)の融資枠が設定され、さらに2024年6月にはイタリアの金融機関チェリー銀行から、新型13速グループセットの開発支援として850万ユーロの融資が実行されました。合計で約1,850万ユーロもの資金が投入されましたが、それでも出血を止めるには至りませんでした。構造的なコスト高と売上の低迷が、注入された資金を飲み込んでしまったのです。
リストラ計画の衝撃:従業員40%削減という「代替案なき決断」
カンパニョーロの経営陣が提示した再建計画の中核は、徹底的なコスト削減でした。その最大の犠牲となったのが人的資本です。ヴィチェンツァ本社の従業員約300名のうち、40%に相当する約120名を解雇するという方針が固められました。
この決定について経営陣は「ドラマティックな結果を避けるためには、これ以外の選択肢はない」と述べています。ここで言う「ドラマティックな結果」とは、倒産や破産申請、あるいは完全な事業売却といった最悪のシナリオを指していると考えられます。
ヴィチェンツァという都市にとって、カンパニョーロは単なる一企業ではありません。地域のアイデンティティの一部であり、主要な雇用主でもあります。解雇対象となる120名には、長年にわたりカンパニョーロの精密な製品づくりを支えてきた熟練工や技術者、管理スタッフが含まれていると推測されます。これほど大規模な人員削減は、イタリア北東部の製造業地帯全体に暗い影を落とすことになりました。
当然のことながら、労働組合(FIOM Vicenza:イタリア金属労働者連盟ヴィチェンツァ支部)はこのリストラ計画に対して激しく反発しています。組合側は「解雇が唯一の解決策であってはならない」と主張し、ワークシェアリングや一時帰休制度の活用など、雇用を維持するための代替案を模索するよう求めています。
カンパニョーロ経営危機の原因その1:ポストパンデミックの「ブルウィップ効果」
カンパニョーロの経営危機を引き起こした外部要因として、まず理解すべきは自転車業界全体を襲った「ブルウィップ効果(鞭効果)」です。ブルウィップ効果とは、サプライチェーンの上流にいくほど需要予測の変動が増幅される現象のことを指します。
2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルスのパンデミックにより世界中で自転車ブームが巻き起こりました。ジムの閉鎖や公共交通機関への忌避感から、人々はサイクリングに殺到し、自転車店からは在庫が消え、メーカーは生産が追いつかない状況に陥りました。この特需に対応するため、自転車メーカーや販売店は将来の需要を見込んで通常をはるかに上回る量の部品や完成車を発注しました。カンパニョーロを含むコンポーネントメーカーも、この過大な需要予測に基づいて増産体制を敷き、原材料を確保したのです。
ところが2022年後半から2023年にかけて、事態は一変しました。パンデミックの収束とともにアウトドアブームは沈静化し、インフレによる生活費の高騰が消費者の財布の紐を固くしました。需要が急減したまさにそのタイミングで、遅れていた大量の製品が工場から出荷され、倉庫に到着し始めたのです。
市場は瞬く間に「供給不足」から「深刻な供給過剰」へと転じました。各国の倉庫は在庫で溢れかえり、小売店は新規の発注をストップしました。売上が立たないにもかかわらず原材料費や製造コストの支払いは発生し続け、在庫保管コストもかさみました。業界最大手のシマノでさえ2024年の決算で営業利益の大幅減を余儀なくされるほどの逆風でしたが、資本力の小さいカンパニョーロにとって、この「需要の蒸発」は致命傷に近いダメージとなりました。
カンパニョーロ経営危機の原因その2:原材料費高騰と為替リスク
ポストパンデミックの需要減退に追い打ちをかけたのが、製造コストの上昇です。アルミニウム、チタン、カーボンファイバーといった自転車コンポーネントの主要原材料の価格が高騰し、さらにエネルギー危機による欧州の電力・ガス価格の上昇が製造原価を押し上げました。
また為替の変動も大きな影響を与えました。イタリア企業であるカンパニョーロはユーロを基盤としていますが、主要な市場の一つである北米や、原材料調達先であるアジアとの取引において為替リスクにさらされています。特に米国市場では欧州製品に対する関税の問題も指摘されており、台湾や中国で生産される競合製品と比較して価格競争力で不利な立場に置かれることになりました。
カンパニョーロ経営危機の原因その3:シマノとSRAMによる市場支配
カンパニョーロの衰退は、競合であるシマノ(日本)とSRAM(アメリカ)の躍進と表裏一体の関係にあります。かつて「御三家」と呼ばれた時代は終わり、現在は「2強+その他」という構図が固定化しつつあります。
シマノの強さはその圧倒的な生産能力と品質管理、そして完成車メーカー(OEM)との強固なネットワークにあります。世界中の自転車メーカーがフレームの設計段階からシマノのコンポーネントを前提に開発を進めており、エントリーグレードからハイエンドまで隙のないラインナップを揃えています。特に「105」や「Ultegra」といったミドルからアッパーミドル層において、シマノは絶対的なコストパフォーマンスと信頼性を提供しています。電動変速システム「Di2」も世代を重ねるごとに完成度を高め、有線接続による安定性とバッテリー寿命の長さでプロ・アマ問わず絶大な支持を得ています。
一方のSRAMはワイヤレス技術と規格の刷新によって市場を切り崩しました。完全ワイヤレス変速システム「eTap AXS」は配線の煩わしさからメカニックとユーザーを解放し、バッテリーの互換性やアプリ連携といった利便性で新たなファン層を獲得しました。さらに脅威的だったのが「UDH(ユニバーサル・ディレイラー・ハンガー)」の導入です。SRAMはフレームメーカーと協力してディレイラーハンガーの規格を統一化し、その規格を利用してフレームに直接マウントする堅牢な変速機をMTB界で普及させ、それをグラベルバイク向けにも展開しています。
この2社の攻勢に対し、カンパニョーロの対応は後手に回りました。カセットスプロケットの取り付け規格(フリーボディ)においても、シマノのHG/MS規格やSRAMのXD/XDR規格が普及する中、カンパニョーロは独自のN3W規格を推進しました。しかしこれはホイールメーカーやユーザーにとって「カンパニョーロを使うためだけの追加コスト」となり、普及の足かせとなってしまいました。
カンパニョーロ経営危機の原因その4:「スポーツ・ラグジュアリー」戦略の失敗
外部環境の厳しさは否定できませんが、カンパニョーロの危機は自ら招いた側面も強いと言わざるを得ません。その代表的な例が「スポーツ・ラグジュアリー」路線への過度な傾倒です。
近年カンパニョーロは、大衆向けの市場(ボリュームゾーン)での競争を避け、超富裕層や愛好家向けの「スポーツ・ラグジュアリー」ブランドとして生き残る道を選択しました。ロレックスやフェラーリのように高価格でも指名買いされるブランドを目指したのです。この戦略に基づき、同社はエントリーからミドルグレードの製品ライン(CentaurやPotenzaなど)の開発を事実上凍結・縮小し、最高級グレードの「Super Record」にリソースを集中させました。
しかし自転車コンポーネントは時計やバッグとは異なり、機能的な消耗品という性質を持っています。性能差が価格差に見合わなければ、ユーザーは離れていきます。シマノのUltegraやSRAMのForceが半額以下の価格で同等以上の性能と利便性を提供する中で、カンパニョーロの「ラグジュアリー」は単なる「割高」と受け取られるようになってしまったのです。
このラグジュアリー路線は完成車(OEM)市場でのプレゼンス喪失を決定づけました。かつてはコルナゴやピナレロ、ビアンキといったイタリアンバイクにはカンパニョーロが組まれているのが当たり前でした。しかし現在、これらのブランドの完成車カタログを見ても、掲載されているのはシマノかSRAM搭載モデルばかりです。現代のサイクリストの多くは完成車を購入してそのまま乗るか、少しずつアップグレードするスタイルをとります。最初からカンパニョーロが付いていなければ、そのユーザーが将来カンパニョーロのファンになる機会は永遠に失われます。OEM市場を捨てたことは将来の顧客基盤を自ら破壊する行為に等しかったのです。
カンパニョーロ経営危機の原因その5:「親指シフト」廃止に象徴される製品開発の迷走
技術的な判断においてもユーザーの期待を裏切るような変更が行われました。その象徴が「親指シフト(サム・シフター)」の廃止です。
長年カンパニョーロのアイデンティティであったブラケット内側の親指レバーは、ドロップハンドルの下部(下ハン)を握ったままでも変速できる独自性と、人間工学的な快適さで愛されていました。しかし最新の「Super Record Wireless」ではこれを廃止し、他社と同様のボタン配置に変更しました。会社側は「操作性の向上」を理由に挙げましたが、多くのファンはこれを「個性の喪失」と受け止めました。「シマノやSRAMと同じような操作感なら、わざわざ高価で調整の難しいカンパニョーロを選ぶ理由がない」という市場の冷ややかな反応は、販売不振に直結しました。
製品別に見るカンパニョーロの課題:Ekarの信頼性問題
カンパニョーロの近年の製品群を個別に分析すると、革新への意欲は見られるものの、品質管理や市場ニーズとのズレが目立ちます。
グラベルバイク向けの13速機械式コンポーネント「Ekar(エカル)」は、カンパニョーロ起死回生の一手として大いに期待されました。フロントシングル専用、超軽量、ワイドレシオという仕様は、グラベルロード需要に完璧に合致しているように見えました。
しかし発売後に信頼性の問題が噴出しました。13速という多段化を狭いスペースに押し込んだため、ケーブルテンションの許容範囲が極めて狭く、少しでも狂うと変速が決まらないという不満がメカニックやユーザーから相次いだのです。さらに深刻だったのが、特定のフレーム(Open Cycleなど)との組み合わせで発生したブレーキホースの問題です。Ekarのブレーキホースがフレーム内部のポートと干渉して損傷し、リアブレーキが効かなくなる恐れがあるとしてリコールや使用停止勧告が出されました。これにより「堅牢性」が求められるグラベル市場においてEkarは「繊細すぎて信頼できない」というレッテルを貼られることになり、SRAMのXPLRシリーズやシマノのGRXにシェアを奪還されてしまいました。
Super Record Wirelessが市場で苦戦する理由
カンパニョーロのフラッグシップモデル「Super Record Wireless」も市場の評価は厳しいものでした。
まず価格の問題があります。グループセット一式で約4,500ドル(約70万円前後)という価格設定は、競合のフラッグシップ(シマノのDura-Ace Di2やSRAMのRed AXS)よりも大幅に高く、その価格差を正当化することが困難でした。
機能面でも課題がありました。競合が標準装備しつつあるパワーメーターが初期ラインナップに含まれていなかったこと(後に別売りで追加)、バッテリーが前後で互換性がないこと(SRAMは前後入れ替え可能)など、実用面での配慮不足が指摘されました。デザイン面でも、カーボンを多用した近代的な外観は、かつての金属加工の美しさを知るオールドファンから「プラスチッキーで安っぽい」という声が聞かれるなど、ブランドの強みであった「美学」さえも揺らいでいます。
HPPMパワーメーター:遅すぎた参入の代償
2024年、カンパニョーロはようやく自社製パワーメーター「HPPM」を市場投入しました。スパイダーアームに16個の歪みゲージを配置し、±1%という高精度を謳う意欲作です。技術的には素晴らしい製品ですが、問題は「タイミング」と「価格」でした。
シマノやSRAMが数年前からパワーメーターをシステムに統合し普及させてきたのに対し、カンパニョーロの参入はあまりにも周回遅れでした。しかも価格は単体で30万円を超えており、既存のSuper Recordユーザーへの追加オプションとしての需要しか見込めないニッチな製品にとどまっています。
生産拠点の海外移転をめぐる議論:イタリアとルーマニアの役割分担
リストラ計画をめぐる議論の中で、労働組合が懸念しているのが「生産拠点の海外移転」です。カンパニョーロはすでにルーマニアに大規模な生産工場を有しており、コスト競争力を高めるためにイタリア国内の生産機能をさらに縮小しルーマニアへ移管するのではないかという憶測が飛び交っています。
これに対し会社側は「移転に関する計画はない」と否定し、「サプライチェーンの見直しを行っており、むしろイタリア国内での短期的かつ迅速なサプライチェーン構築に焦点を当てている」と反論しています。しかし40%もの人員削減を実行しながら国内生産能力を維持できると考えるのは難しく、実質的な機能移転が進むことは不可避との見方が大勢を占めています。
今後の方針として、ヴィチェンツァ本社はR&D(研究開発)、プロトタイピング、そして最上位モデルの最終組み立てといった「頭脳」と「コア技術」に特化し、量産品や部品製造についてはルーマニア工場やその他のパートナーへの移管をさらに進めることでコスト競争力を取り戻そうとしています。「メイド・イン・イタリー」へのこだわりを一部緩和することは痛みを伴う改革ですが、グローバル市場で生き残るためには避けて通れない道と言えるでしょう。
カンパニョーロ再生への希望:ミドルレンジ市場への回帰
絶望的な状況に見えるカンパニョーロですが、再生の芽が完全に摘まれたわけではありません。リストラ報道と同時に漏れ伝わってきた最も重要な情報は、カンパニョーロが「ミドルレンジ(中価格帯)」市場への再参入を計画しているという点です。
「ラグジュアリー一辺倒」の失敗を認め、より多くのサイクリストが手に取れる価格帯の製品開発を進めているとされます。具体的にはSuper Recordで培った13速テクノロジーやワイヤレス技術を、かつての「Chorus」や「Potenza」クラスに落とし込み、シマノの105やUltegraに対抗できる製品を投入する可能性があります。もし信頼性が高く価格競争力のある「13速ワイヤレスコンポ」がミドルグレードで登場すれば、市場のゲームチェンジャーになる可能性を秘めています。
2025年のワールドツアー復帰:コフィディスとの提携
ブランドイメージの再構築に向けた大きな一歩として、2025年シーズンからの「コフィディス(Cofidis)」チームへの機材供給が決定しました。2024年は男子ワールドツアーチームへの供給がゼロという屈辱的な年でしたが、フランスの古豪チームと組むことで、再びツール・ド・フランスなどの大舞台にカンパニョーロの機材が登場することになります。
選手からのフィードバックを得る場を確保したことは製品開発のスピードアップにも寄与するでしょう。ただしコフィディスは近年成績が低迷しており、機材の優位性をアピールできるような勝利を挙げられるかは不透明です。
カンパニョーロは生き残れるのか:2025年の展望と自転車業界への示唆
カンパニョーロの経営危機は、一企業の失敗という枠を超えて自転車文化の曲がり角を象徴しています。効率と電子制御が支配する現代において、感性や歴史的背景に訴えるビジネスモデルがどこまで通用するのか、その限界が試されています。
カンパニョーロ経営危機の主要因を総括すると、第一にポストコロナの需要急減を見誤り過剰在庫と固定費増大を招いた市場の読み違え、第二にラグジュアリー路線への傾倒により収益の柱であるOEM市場とミドル層を失った戦略の失敗、第三に独自規格と高価格によりエコシステムを構築する競合他社に対抗できなくなった製品の孤立が挙げられます。
カンパニョーロが生き残るための条件は明確です。第一に痛みを伴うリストラを完遂し損益分岐点を大幅に引き下げること、第二に失った信頼を取り戻すための「完璧な新製品(特にミドルレンジ)」を市場に投入しOEM採用を勝ち取ること、第三にコフィディスとの提携を通じてレースシーンでの存在感を再び高めることです。
40%の人員削減は同社が「小さくなること」を受け入れた証左でもあります。今後はかつてのような「シマノの対抗馬」としての巨大メーカーではなく、規模は小さくとも独自の哲学と確かな技術を持った「プレミアム・ブティック・メーカー」として新たな立ち位置を確立していくことになるでしょう。その過程で他資本による買収やさらなる事業再編が行われる可能性も否定できません。
しかし自転車を愛する多くの人々にとって、カンパニョーロの変速機が奏でる独特の機械音とイタリアンデザインの造形美は何物にも代えがたい価値を持っています。この危機を乗り越え名門が再び輝きを取り戻せるのか、2025年はカンパニョーロにとって、そして自転車界にとって運命の分水嶺となる一年です。


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