株式会社ダイナーが製造・販売する電動アシスト自転車「WO(ダブルオー)」シリーズに対し、2025年12月11日付でリコール(回収・無償修理)が発表されました。対象モデルは「M2X」「F.C.B」「GRISSE」の3機種で、対象台数は942台です。リコールの原因は、アシストパワーを操作するボタンを長押しした際に車両が突然走り出すという不具合であり、対象車両の所有者は直ちに使用を中止し、バッテリーを取り外したうえでメーカーへ連絡する必要があります。この記事では、リコールの詳細な内容から対象モデルの見分け方、車台番号の確認方法、そして具体的な対応手順まで、WO電動アシスト自転車のリコールに関するすべての情報を網羅的に解説します。

ダイナー製電動アシスト自転車「WO」リコールの概要
2025年12月11日、経済産業省および消費者庁は、株式会社ダイナーが製造・販売する電動アシスト自転車「WO(ダブルオー)」シリーズについて、リコール情報を公表しました。このリコールは消費生活用製品安全法に基づくものであり、製品の安全性に関わる重大な案件として位置づけられています。
リコール対象の基本情報
今回のリコール対象となるのは、株式会社ダイナーが東京都港区の拠点から展開する電動アシスト自転車ブランド「WO」の製品です。対象台数は942台であり、大量生産される大手メーカーの製品と比較すると数字自体は限定的に見えます。しかし、WOの電動アシスト自転車は1台あたりの価格が20万円から30万円を超えるプレミアムな製品であり、ファッション感度の高い層に支持されるニッチブランドとして知られています。そのため、この942台という数字は、WOブランドの市場規模を考慮すると極めて大きなインパクトを持つものです。
消費者庁のリコール情報サイトでは「車両・乗り物」カテゴリにおいて株式会社ダイナーの電動アシスト自転車が「部品交換」の対象としてリストアップされました。同日、経済産業省の製品事故情報報告においても「製品起因が疑われる事故」として電動アシスト自転車が含まれており、当局が製品の設計または製造過程に明確な欠陥が存在すると判断していることを示しています。
リコールの原因となった不具合の内容
リコールの原因は、アシストパワーを操作するボタンを長押しした際に、車両が突然走り出すという不具合です。これは単なる部品の脱落や塗装の不具合といった軽微な品質不良ではありません。ライダーがペダルを漕いでいない状態、あるいは乗車すらしていない状態で、30kgを超える重量級の車体が電気モーターの強力なトルクによって自律的に動き出すという、極めて重大な保安基準に関わる欠陥です。
電動アシスト自転車は、日本の道路交通法および関連法令において「人の力を補うため原動機を用いる自転車」と定義されています。その基本原則は、人がペダルを漕ぐ力(踏力)をセンサーが検知し、それに応じてモーターが補助力を提供するというものです。人が漕がなければモーターは動いてはならないというのが大原則であり、今回の不具合はこの根本原則を揺るがすものとなっています。
リコール対象モデル「M2X」「F.C.B」「GRISSE」の特徴
リコール対象となっているのは、WOブランドの電動アシスト自転車のうち「M2X(エムツーエックス)」「F.C.B(エフシービー)」「GRISSE(グリッセ)」の3モデルです。それぞれのモデルには独自の特徴があり、所有者が自身の車両を正確に識別するためには、各モデルの外観的特徴を理解しておくことが重要です。
WO M2X(エムツーエックス)の特徴
M2Xは、WOブランドを代表するフラッグシップモデルです。その外観は自転車というよりもオートバイに近く、ストリートでの圧倒的な存在感を放つデザインが特徴となっています。
フレームデザインについては、トップチューブが高い位置にあるクラシックなモーターサイクルやBMXを彷彿とさせる骨太なアルミフレームを採用しています。タイヤは20インチ×4.0インチの極太ファットタイヤを装備しており、雪道や砂浜も走破できる走破性を持つ一方で、舗装路ではその太さが強烈なグリップと慣性を生み出します。
フロントにはオートバイのような「ダブルクラウン」サスペンションフォークを装備しており、見た目のインパクトと衝撃吸収性を両立させています。車体重量は約38kgであり、一般的な電動アシスト自転車の約25kg前後と比較すると約1.5倍の重さがあります。
フロントには大型の砲弾型LEDヘッドライトを装備しており、このライトのON/OFF操作がボタン長押しで行われることが多いため、今回の不具合発生のトリガーになりやすい箇所といえます。M2Xはファッション感度の高い層やバイク愛好家のセカンドバイクとして人気があり、街乗りでの使用が主となっています。その重量ゆえに、信号待ちでの発進時などに不具合が発生すると、ライダーがバランスを崩して転倒し、車道側に倒れ込むなどの重大事故につながるリスクが最も高いモデルです。
WO F.C.B(エフシービー)の特徴
F.C.Bは、M2Xが無骨なオフロードスタイルであるのに対し、より都市的な洗練さを求めたモデルとして位置づけられています。名称は「Fast City Bike」あるいはそれに類するコンセプトの略称と考えられ、街中での機動性を重視した設計となっています。
M2Xと同様に電動アシストユニットを搭載していますが、フレーム形状やタイヤサイズが異なる可能性があります。ただし、制御を行うコントローラーやディスプレイユニットはM2Xと共通部品を使用している可能性が高く、そのため同様の「ボタン長押しによる暴走」リスクを共有しています。ハンドルバーに取り付けられた操作スイッチの形状がM2Xと同じであれば、内部システムも同一であると判断して警戒すべきです。
WO GRISSE(グリッセ)の特徴
GRISSEは、M2XやF.C.Bほど広く知られていないモデルですが、リコール公表資料に明記されている重要なモデルです。モデル名「GRISSE」はフランス語やドイツ語で「グレー」を意味する言葉に由来する可能性があり、特定のカラーリングや都会的なマットな質感を特徴とした特別仕様車、あるいは特定のフレームデザインを持つ派生モデルである可能性があります。
GRISSEについて特に注意が必要なのは、M2XやF.C.Bほどメジャーな名称ではないため、所有者が「自分の自転車はM2Xではないから大丈夫」と誤認してしまうリスクがあることです。WOブランドの自転車を所有しており、モデル名がはっきりしない場合は、必ず車体のロゴを確認し「GRISSE」の文字がないかチェックする必要があります。
車台番号の確認方法と対象リストとの照合
リコール対象かどうかを確実に判断するためには、車台番号(シリアルナンバー)の確認が不可欠です。今回のリコールは942台という限定的な台数であるため、車台番号による照合が必須となります。
モデル名の確認手順
最初に行うべきは、車体のフレーム部分でモデル名を確認することです。トップチューブ(またぐ部分)の側面には「M2X」「WO」「F.C.B」といった大きなロゴステッカーやペイントがあります。また、ダウンチューブ(太い斜めのパイプ)のバッテリーが装着されている部分やその裏側にも、モデル名やメーカー名(DINER)の記載がある場合があります。
車台番号の刻印場所
WOの自転車における車台番号の刻印場所は、主に3箇所です。
ヘッドチューブ下部が最も重要な確認ポイントです。自転車の正面に回り込み、ハンドルがついている縦のパイプ(ヘッドチューブ)の一番下の部分、つまりフロントフォークとの境目付近を確認します。ライトの裏側に隠れていることもあるため、下から覗き込むように探してください。ここに英数字の刻印があれば、それが車台番号です。
ボトムブラケット(BB)シェル下部も一般的な刻印場所です。ペダルがついている回転軸(クランク軸)の真下にあたり、自転車をひっくり返すか、地面に寝転がって下から見上げると、フレームの裏側に刻印が見つかることがあります。これは最も一般的な自転車の車台番号位置として知られています。
保証書・防犯登録控えでの確認も有効です。車体が汚れていて刻印が読めない場合は、購入時に受け取った「品質保証書」や「販売証明書」、あるいは「自転車防犯登録の控え(お客様控え)」を確認してください。これらの書類には「車台番号」という欄があり、正確な番号が記載されています。
対象番号リストとの照合方法
確認した車台番号が、経済産業省やダイナー公式サイトで公表されている「リコール対象番号リスト」に含まれているかを確認します。リストは動的に更新される可能性があるため、必ず最新の公式サイトを参照することが重要です。
不具合が発生するメカニズムの技術的解説
今回の「ボタン長押しで突然走り出す」という不具合がなぜ発生するのか、その技術的なメカニズムを理解することで、リスクの深刻さをより正確に把握することができます。
ウォークモード(押し歩き機能)の誤作動
現代の電動アシスト自転車、特に車体が重いファットバイクやe-MTBには「ウォークモード(Walk Assist Mode)」と呼ばれる機能が搭載されていることが一般的です。これは自転車を降りて坂道を押し上げる際などに、時速6km以下程度の微速でモーターを回転させ、押し歩きを補助する機能です。
通常、ウォークモードの起動には安全のための複雑な手順が必要です。たとえば「マイナスボタンを長押しし、画面表示が変わってから再度長押しし続ける」といったツーステップ認証や、「ボタンを押している間だけモーターが動く(デッドマン・スイッチ)」方式が採用されています。
今回の不具合は、このウォークモードの制御ロジックに致命的なバグがあった可能性を示唆しています。本来は「ライト点灯」や「電源OFF」に割り当てられている長押し操作を、コントローラーが誤って「ウォークモード起動」と解釈してしまった可能性があります。また、ウォークモードであれば微速(低トルク)でなければなりませんが、制御プログラムの不具合により最大トルクに近い電流がモーターに供給された可能性があります。これにより「ゆっくり動く」のではなく「突然走り出す(急発進)」という危険な挙動になったと考えられます。
さらに深刻なのは、ボタンを離してもモーターへの通電が止まらない「ラッチアップ」のような状態が発生した場合です。この場合、自転車はユーザーの手を離れて自走し続け、壁や人に衝突するまで止まらない暴走状態に陥ります。
センサーレス制御と始動時の不安定性
一部の電動アシストシステムでは、コストダウンや構造簡素化のために、モーターの回転位置を検知する物理的な「ホールセンサー」を省略し、電気的なフィードバック(逆起電力)のみで制御を行う「センサーレス制御」を採用している場合があります。
センサーレス制御は、モーターが停止している状態からの始動制御が非常に難しく、コントローラーがモーターの回転位置を見失うと、意図しない方向に力を加えたり、急激な電流を流して無理やり回転させようとする「コギング」や「急発進」を引き起こすリスクがあります。WOシリーズのような高出力モーターを搭載したモデルでこの制御方式が採用されていた場合、ボタン操作による微細な電流変化がトリガーとなり、コントローラーが誤った始動シーケンスを実行してしまった可能性も考えられます。
重量級車体による危険性の増大
今回のリコール対象であるWOの自転車は、一般的なシティサイクルとは一線を画す「ファットバイク」スタイルを採用しています。主力モデルのM2Xは車体重量が約38kgもあります。物理学の観点から見ると、運動エネルギーは「質量×速度の2乗」に比例します。38kgの車体が高トルクモーターによって瞬発的に加速された場合、その衝撃力は非常に大きなものになります。
混雑した交差点や子供のいる駐輪場でこの不具合が発生した場合、生身の人間がこの暴走車両を腕力だけで制止することはほぼ不可能です。このような理由から、今回の不具合は「使用中止」を強く推奨すべき緊急性の高い案件となっています。
リコール対象者が今すぐ行うべき対応手順
リコール対象であることが判明した場合、あるいは対象かどうか不安な場合は、以下の具体的な行動を直ちに実行する必要があります。
使用中止とバッテリーの取り外し
「乗らない」ことが唯一かつ最大の防御策です。 リコール対象車は、いつ誤作動を起こすか分からない状態にあります。自分だけでなく、家族や友人が誤って乗らないよう、適切な措置を講じてください。
最も確実な対策はバッテリーを外すことです。電力が供給されなければ、コントローラーが誤作動してもモーターは回りません。バッテリーを外し、自宅の安全な場所で保管してください。また、ハンドルやサドルに「リコール対応中・乗車禁止」と書いた貼り紙をしておくことで、家族など他の人が誤って使用することを防げます。
メーカーへの連絡方法
株式会社ダイナーへの問い合わせ窓口は以下の通りです。社名は株式会社ダイナー(Diner Co., Ltd.)であり、公式ウェブサイトはhttps://wobikes.com/です。旗艦店は東京都目黒区中目黒1-8-8 1Fに所在するWO旗艦店となっています。
受付時間は12:00~19:00となっていますが、水曜定休の可能性があります。ただし、リコール緊急対応時は変更される場合があるため、公式サイトで最新情報を確認してください。電話が混雑して繋がらない場合は、公式サイトのトップページまたは「NEWS」セクションに開設されているリコール受付専用フォームを利用することが確実です。
修理の内容と所要時間
公表によれば、今回のリコールでの対応策は「部品交換」です。交換される部品は、問題の原因となっている「操作スイッチユニット(ディスプレイ含む)」または、モーターを制御する「コントローラーユニット」になると予想されます。
修理の所要時間は部品の在庫状況によりますが、持ち込み修理であれば数時間から数日、配送修理であれば1~2週間程度かかることが一般的です。リコール対応であるため、部品代・工賃ともに無償で行われます。
株式会社ダイナーとWOブランドについて
今回のリコール情報を正しく理解するためには、株式会社ダイナーというメーカーとWOブランドの背景を知っておくことも重要です。
ストリートカルチャーを起源とするブランド
株式会社ダイナーは、元々ピストバイク(固定ギア自転車)のブームを牽引してきた西麻布・中目黒エリアの有名ショップが母体となっています。そのルーツは「自転車=移動手段」という実用性だけでなく、「自転車=ファッション、自己表現」というストリートカルチャーにあります。
WOブランドもその延長線上にあり、「日常を広げる有効な移動手段になるとともに、その独特のデザイン性でこだわりの1台を提供する」という理念を掲げています。WOの自転車は、極太タイヤ、オートバイのようなルックス、マットブラックの塗装など、非常にスタイリッシュでデザイン性の高い製品として知られており、多くの芸能人やインフルエンサーが愛用していることでも話題を集めています。
デザイン重視と安全性のバランス
新興のライフスタイルブランドが、電動アシスト自転車という高度な電子制御と強力なモーターを伴う工業製品を製造・販売することには、大手メーカーとは異なる難しさがあります。今回のリコールは、デザインやスタイルを追求する一方で、制御システムの検証やフェールセーフ(誤操作時の安全設計)の作り込みにおいて、課題があった可能性を示しています。
消費者として心がけるべきこと
バッテリーやモーターといった危険を伴う部品を搭載したモビリティを選ぶ際は、外観のデザイン性だけでなく、そのメーカーのサポート体制や品質管理の実績も考慮に入れることが重要です。今回のリコール対応における情報公開の迅速さや問い合わせ対応の誠実さは、ダイナーというブランドが今後も信頼に足るメーカーとして存続できるかどうかの試金石となるでしょう。
その他のWOシリーズ製品について
WOブランドには、今回リコール対象となった電動アシスト自転車以外にも、特定小型原付の「WONKEY(ウォンキー)」などが存在します。今回のリコール発表(2025年12月11日)で明記されたのは「電動アシスト自転車」カテゴリーの製品であり、WONKEYはスロットル付きの「特定小型原付」として法区分が異なります。
ただし、同じメーカーが設計・製造している以上、部品の共用化は十分に考えられます。WONKEY所有者も、念のためメーカーの発表を確認し、同様の操作(ボタン長押し)で異常がないか安全な場所で慎重に確認するか、あるいは操作自体を控えることが賢明です。
リコール対応完了までの過ごし方
リコール対象車を所有している場合、修理が完了するまでの期間をどのように過ごすかも重要なポイントです。
安全確保を最優先に
繰り返しになりますが、修理が完了するまでは絶対に乗車しないでください。「少しくらい大丈夫だろう」という油断が重大事故につながる可能性があります。バッテリーを取り外した状態で保管し、他の人が誤って使用しないよう注意を払ってください。
代替交通手段の確保
WOの電動アシスト自転車を日常の移動手段として使用していた場合は、修理期間中の代替交通手段を確保する必要があります。公共交通機関の利用や、他の自転車の一時的な使用などを検討してください。
修理状況の確認
メーカーに連絡した後は、修理の進捗状況を定期的に確認することをお勧めします。部品の入荷状況や修理の順番などについて、適宜問い合わせを行うことで、より早く安全な状態で自転車を使用できるようになります。
まとめ
2025年12月11日に発表された株式会社ダイナー「WO」シリーズのリコールは、942台という限定的な台数ながら、その不具合の内容(意図しない急発進)において極めて重大な案件です。対象モデルは「M2X」「F.C.B」「GRISSE」の3機種であり、アシストパワーを操作するボタンを長押しした際に車両が突然走り出すという危険な不具合が報告されています。
対象モデルの所有者は、「使用中止」「バッテリー取り外し」「メーカー連絡」の3点を直ちに実行する必要があります。車台番号の確認は、ヘッドチューブ下部、ボトムブラケットシェル下部、または保証書・防犯登録控えで行うことができます。
電動アシスト自転車は便利な移動手段ですが、バッテリーとモーターという強力な動力源を搭載している以上、安全性の確保は最優先事項です。今回のリコール対象となった方は、メーカーの指示に従って適切に対応し、修理完了後に安全な状態で再び愛車との時間を楽しんでください。
最新の情報は、経済産業省リコール情報サイトおよび株式会社ダイナー公式サイト(https://wobikes.com/)で必ず確認することをお勧めします。


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