ウィリエール Turbine SLは、イタリアの名門自転車メーカー「ウィリエール・トリエスティーナ」が発売したトライアスロン・タイムトライアル用バイクで、欧州価格€5,900(日本円で約90万円台後半〜105万円程度と推測)から購入できます。2024年後半から2025年モデルとして市場に投入されており、上位モデル「Supersonica SLR」の空力技術を継承しながら、Shimano 105 Di2やカーボンホイールを標準装備した完成車パッケージとして販売されています。
ウィリエール Turbine SLが注目を集めている理由は、フラッグシップモデルと同等の空力性能を持ちながら、より現実的な価格帯を実現した点にあります。トライアスロンバイクの価格高騰が続く中、エリートアマチュアやエイジグルーパーにとって、高性能バイクを手に入れるチャンスが広がりました。この記事では、Turbine SLの価格設定やスペック詳細、発売時期に加え、設計思想や競合モデルとの比較まで詳しく解説します。

ウィリエール Turbine SLとは
ウィリエール Turbine SLは、イタリアの老舗自転車メーカー「ウィリエール・トリエスティーナ(Wilier Triestina)」が手がけるトライアスロン・タイムトライアル専用バイクです。「SL」という名称は、フラッグシップモデル「SLR(Super Light Racing)」と同一の金型を使用しながら、カーボン素材の積層を変更することでコストダウンと快適性向上を実現したモデルであることを示しています。
Turbine SLの最大の特徴は、ウィリエール史上最速のTTバイクとして開発された「Supersonica SLR」の技術を直接受け継いでいることです。メーカー自身が「Turbine SL is the direct embodiment of the experience gained with the Supersonica SLR(Turbine SLはSupersonica SLRで得られた経験を直接具現化したものである)」と明言しており、フレームのチューブ形状やヘッドチューブ周りのエアロプロファイルには、最先端のCFD(数値流体力学)解析と風洞実験の結果が反映されています。
ウィリエールは2018年に初代「Turbine」を発表した際、業界に先駆けてディスクブレーキ専用設計のトライアスロンバイクを投入しました。当時はディスクブレーキの空力性能に懐疑的な声もありましたが、ウィリエールは「ディスクブレーキ化によってフォーククラウンやシートステイのクリアランスが広がり、結果としてホイール周りの乱気流が減少して空力が向上する」という逆転の発想を提唱しました。この設計思想は現在のTurbine SLにも色濃く受け継がれています。
ウィリエール Turbine SLの価格
ウィリエール Turbine SLの欧州における販売価格は、Shimano 105 Di2完成車で€5,900からと発表されています。日本国内での正式価格は、近年のウィリエール・ジャパンの価格設定レートを考慮すると、約90万円台後半から105万円程度(税込)のレンジに収まると推測されます。
この価格設定は、上位モデルとの比較で非常に競争力があります。Turbine SLR(Ultegra Di2仕様)が€9,900(約160万円〜)であることを考えると、Turbine SLは約60%の価格でフレーム形状と主要な空力性能を手に入れることができます。フラッグシップと同等の金型から生産されたフレームを、この価格帯で入手できることは「スーパーバイクの民主化」と呼ぶにふさわしい出来事です。
Turbine SLの価格対価値を高めているのは、完成車としてのパッケージの充実度です。イタリアのMiche製カーボンホイール「S 50 CARBON」が標準装備されており、リムハイト50mmのカーボンリムは平坦での空力効果と横風に対するハンドリング性能のバランスが取れています。ホイール単体を後から購入すると約15万〜20万円のコストがかかることを考えれば、トータルコストでの競争力は十分にあります。
さらに、シフター(変速レバー)には「SHIMANO DURA-ACE ST-R9180 Di2」および「BR-R9270」ブレーキキャリパーが採用されています。Shimanoは105グレードの油圧ディスクブレーキ対応TT用レバーをリリースしていないため、必然的にDura-Aceグレードのレバーが採用されることになりました。ライダーが直接触れる操作部が最上級グレードであることは、この価格帯のバイクとしては大きなアドバンテージです。
ウィリエール Turbine SLの発売日と入手方法
ウィリエール Turbine SLは、ウィリエールの公式サイトにおいて「New」アイコンと共に掲載されており、2024年後半から2025年モデルとして市場に投入されています。日本国内においては、例年9月から10月にかけて翌年のモデルラインナップと価格が正式発表され、受注が開始されるパターンとなっています。
2025年のトライアスロンシーズン(春〜夏)に向けて納車を希望する場合、2024年秋から冬にかけてのオーダーが必須となります。店頭在庫として並ぶことは稀な車種であるため、早めの問い合わせと予約が推奨されます。ウィリエールのトライアスロンバイクは生産数が限られているため、シーズン直前になると希望サイズやカラーが入手困難になる可能性があります。
購入にあたっては、ウィリエール正規販売店を通じて注文することで、手厚いサポートとフィッティングサービスを受けられます。トライアスロンバイクは、フィッティングによって数ミリ単位でパッド位置やエクステンションの長さを調整する必要があるため、専門知識を持つショップでの購入が望ましいです。
ウィリエール Turbine SLのスペック詳細
フレーム素材と構造
Turbine SLのフレームは「Carbon Monocoque(カーボン・モノコック)」構造を採用しています。上位モデルのSLRグレードが「HUS-MOD(High Modulus)カーボン」に加えて「L.C.P.(液晶ポリマー)」を使用しているのに対し、SLグレードでは中弾性から高弾性のカーボン繊維をブレンドした素材構成になっています。
この素材選択には明確な意図があります。SLRフレームが約990g(塗装済み、サイズM想定)であるのに対し、SLフレームは一般的に150g〜200g程度の重量増となる傾向がありますが、平坦基調のトライアスロンコースにおいてこの程度の重量差がタイムに与える影響は極めて軽微です。むしろ重要なのは乗り心地の違いで、超高剛性なSLRフレームはプロの脚力には応えますが、一般ライダーには硬すぎて疲労の原因になることがあります。SLグレードのカーボンレイアップは適度な「しなり」を持つため、振動吸収性が高く、ロングディスタンスのバイクパート後半でも脚を残しやすいというメリットがあります。
フォーク設計
フォークもSupersonica由来の設計が採用されています。特筆すべきは、ブレーキシステムを中心に設計された非対称形状です。ディスクブレーキの強力なストッピングパワーを受け止める左側のブレードと、空力センサーやハブの回転を支える右側のブレードで、剛性バランスと形状が最適化されています。これによりブレーキング時のねじれを防ぎ、高速コーナーやテクニカルな下り坂でも狙ったラインを正確にトレースできます。スルーアクスル規格はフロントが12×119.5mm、リアが12×166.5mmという独自規格(Miche製スルーアクスル)を採用しています。
タイヤクリアランス
Turbine SLは最大32mm幅のタイヤクリアランスを確保しています。標準仕様の完成車には28cのタイヤ(Vittoria Rubino Pro IV Graphene 2.0 700x28c)が装着されていますが、コース路面が荒れている場合や快適性を求めたい場合には30mmや32mmのタイヤを装着することも可能です。太いタイヤは空気圧を下げて運用できるため、転がり抵抗を犠牲にすることなく路面からの突き上げを大幅に軽減できます。180kmのバイクパートを走った後のランニングへの影響を考えると、この「32mmクリアランス」は非常に大きなアドバンテージとなります。
ジオメトリ(フレーム寸法)
Turbine SLのジオメトリは、極端な前傾姿勢を強いるTT専用機とは異なり、トライアスリートが長時間維持できる「Enhanced Fit(拡張されたフィット)」を提供する設計となっています。サイズ展開はXS/S、M、L/XLの3サイズ構成です。
XS/Sサイズは、スタック(BB中心からヘッドチューブ上端までの垂直距離)が490mm、リーチ(BB中心からヘッドチューブ上端までの水平距離)が385mm、シートチューブ長が49cmです。Mサイズは、スタックが522mm、リーチが405mm、シートチューブ長が53cmとなっています。L/XLサイズは、スタックが554mm、リーチが425mm、シートチューブ長が56.2cmです。
比較的高めのスタック設定により、Supersonicaなどの純粋なTTバイクに比べてハンドル位置が高めに設定できます。柔軟性に自信のないライダーや、長時間のエアロポジションで首や腰への負担を減らしたいライダーに適した設計です。シートアングル(有効シート角)はMサイズで79.5度と非常に急角度に設定されており、サドルを前方にセットして股関節の角度を開いた状態でペダリングすることで、大腿四頭筋の疲労を抑え、ランニングで重要となるハムストリングスを温存できます。
ドライブトレイン
コンポーネントの核心となる変速・駆動系には、Shimanoの「105 Di2(R7100シリーズ)」が採用されています。12速化された105 Di2は、DHバーの先端とブレーキレバーの両方で変速操作が可能な「シンクロナイズド・シフト」や「マルチシフト」といった電動変速ならではの機能を、上位グレードより手頃な価格で享受できる点がトライアスロンバイクにとって理想的です。
ギア構成は、フロントクランクが52-36T、リアカセットが11-34Tとなっています。最小ギア比がほぼ1:1(36T/34T)に近いため、激坂を含むコース(アイアンマン・ニースや宮古島など)でも無理なくペダルを回すことが可能です。
コックピット
ハンドル周りには、イタリアのDeda Elementi製「Crononero Evo(クロノネロ・エボ)」が採用されています。このハンドルバーは6061アルミニウム合金製のエアロベースバーで、「Aero Flat Bar」と呼ばれる形状はウィング角度0度、ドロップ0mmの完全なフラット形状をしており、前面投影面積を最小限に抑えています。
ウィリエールが独自の一体型カーボンハンドルではなく汎用性の高いDeda製アルミハンドルを採用した理由は明確です。トライアスロンでは数ミリ単位のポジション調整が必要であり、Crononero EvoはJベンド形状のエクステンションバーを標準装備しているため長さのカットや角度調整が容易です。また、海外レースへの遠征時にバイクケースへの収納が容易で、万が一輸送中に破損した場合でも代替品の入手が容易というメリットがあります。
ホイール
足回りには、イタリアのMiche製「S 50 CARBON」ホイールセットが標準装備されています。リムハイト50mmのカーボンリムは、平坦での空力効果と横風に対するハンドリング性能、そして登坂時の重量のバランスが取れた「万能型」のリムハイトです。完成車付属のホイールとしては非常にグレードが高く、購入後すぐにレースで使えるスペックを備えています。
ウィリエール Turbine SLの空力設計「Total Aero」とは
Turbine SLの設計において重視されているのが「Total Aero」という概念です。これは、フレーム単体の空気抵抗値だけでなく、ライダーが乗車しボトルや補給食を携帯した実走状態での空気抵抗を最小化するという考え方です。
従来のTTバイク開発では風洞実験室での数値(ヨー角0度など)が重視されがちでしたが、実際のトライアスロンレースでは横風やライダーの疲労によるフォームの乱れなど、様々な変数が存在します。Turbine SLは、ケーブル類の完全内装化(フルインテグレーション)や、ボトル装着時の整流効果を考慮したダウンチューブ形状など、実戦で「速い」と感じられる工夫が随所に施されています。
ウィリエール Turbine SLのトライアスロン専用機能
トップチューブストレージ
トップチューブ上部には、Profile Design製の「ATTK Toolkit」が標準装備されています。このストレージボックスは容量290cm³を持ち、エネルギージェルや固形食、パンク修理キットなどを収納するのに十分なスペースがあります。ステムの後方にぴったりと収まる形状設計により、ステムからトップチューブにかけての空気の流れを整える「フェアリング」としての役割も果たします。
Aerokitシステム(オプション)
Turbine SLの空力性能をさらに引き上げるオプションとして「Aerokit(エアロキット)」が用意されています。ダウンチューブからBB(ボトムブラケット)エリアにかけて装着される専用設計のハイドレーションボトル兼ストレージシステムで、最大1100mlという大容量の水分を携帯できます。このAerokit自体がフレームの一部として機能し、空気の整流効果を生み出します。
ウィリエールのデータによれば、Aerokitを装着することで従来の一般的な丸ボトルを装着した場合と比較して、空気抵抗を3分の2以上削減できるとしています。トライアスロンのレギュレーション(特にアイアンマンなどのロングディスタンス)ではUCIルールのような厳格な形状制限がないため、こうした「空力パーツとしてのボトル」が使用可能です。練習時などには通常のボトルケージと丸ボトル(ダウンチューブ550ml、シートチューブ750ml)を使用することもできます。
ウィリエール Turbine SLと競合モデルとの比較
Turbine SLの競合となる「ミドルグレード・ディスクブレーキ・トライアスロンバイク」市場には、いくつかの強力なライバルが存在します。
Cervélo P-Series(105 Di2)は、トライアスロンバイクの絶対王者Cervéloの普及モデルで、空力性能と収納力に定評があります。価格は日本円で約60万円〜80万円前後と競争力がありますが、非常にユーザー数が多くレース会場での「被り」が避けられません。Turbine SLは「イタリアンブランドの希少性」と「美しさ」で差別化できます。
Canyon Speedmax CF 7 Di2は、ドイツの直販ブランドCanyonが約60万円〜70万円程度で提供しており、圧倒的なコストパフォーマンスを誇ります。しかし直販モデルであるためメンテナンスや組み立てを依頼できるショップを自分で探す必要があります。Turbine SLは正規ディーラーを通じた手厚いサポートとフィッティングサービスを受けられる点が大きなメリットです。
Argon 18 E-117 Tri Discは、カナダのArgon 18による根強い人気モデルでトラベル性能を重視した設計です。Turbine SLは「Supersonica由来」という最新の空力トレンドを取り入れている点で、設計の新しさに分があります。
Turbine SLの強みは、カーボンホイールが標準装備されていることやDura-Aceのブレーキレバーが装備されていることなど、カタログスペックに現れない部分でのパッケージの良さにあります。
ウィリエール Turbine SLのライドフィールと走行性能
適度な剛性がもたらす快適性
上位モデルのSLRはプロのスプリント力に応えるために極めて高い剛性を持っていますが、一般ライダーにとっては「脚が売り切れる」原因になりかねません。Turbine SLの標準弾性カーボンフレームは、ペダリングの入力に対して適度なウィップ(しなり)を持って反応するため、リズムが取りやすく筋肉への急激な負荷を和らげる効果が期待できます。
アイアンマンのような180kmの長丁場では、路面からの微振動がボディブローのように体力を奪います。Turbine SLのマイルドな乗り味と32mmタイヤ対応の振動吸収性は、バイクパートの後半になってもエアロポジションを維持し続ける助けとなり、結果としてトータルタイムの短縮に繋がります。
安定志向のハンドリング
低重心かつ長めのホイールベース(L/XLサイズで1032mm)は、直進安定性を重視した設計です。疲労して集中力が低下した状態でもバイクがふらつきにくく、安心して身を預けられます。テクニカルなコーナーを攻めるようなクリテリウム的な走りよりも、淡々とペースを刻むクルージング性能に特化した、まさにトライアスロンのためのチューニングです。
ウィリエール Turbine SLはこんな人におすすめ
初めての本格的トライアスロンバイクを検討している人にとって、Turbine SLはロードバイクからのステップアップとして最適な選択肢です。空力、収納、電動変速、カーボンホイールと、必要な機能が全て揃った「レディ・トゥ・レース(即実戦可能)」なパッケージとなっています。
ロングディスタンス(ミドル〜ロング)を主戦場とする人には、快適性を重視したフレーム設計とジオメトリ、そして大容量のハイドレーションオプションが長い距離を戦う上で強力な武器となります。
所有欲と美意識を大切にする人にとって、機能一辺倒になりがちなトライアスロンバイクの中でウィリエールのイタリアンデザインは異彩を放ちます。「速い」だけでなく「美しい」バイクに乗ることは、厳しいトレーニングを続けるための大きなモチベーションになります。
メカニカルなトラブルリスクを減らしたい人にとっては、汎用ハンドルの採用や信頼性の高いShimano 105 Di2の搭載が、遠征先でのトラブル対応や日々のメンテナンスを容易にしてくれます。
ウィリエール Turbine SLについてよくある疑問
ウィリエール Turbine SLの購入を検討する際によく挙がる疑問について解説します。
Turbine SLとTurbine SLRの違いについては、両モデルとも同一の金型から生産されたフレームですが、カーボン素材の積層が異なります。SLRは超高剛性で軽量な素材を使用しプロ向けの性能を追求しているのに対し、SLは適度なしなりを持たせることで快適性を向上させています。重量差は150g〜200g程度で、ロングディスタンスでは快適性のメリットの方が大きくなります。
日本国内での購入方法については、ウィリエール正規販売店を通じて注文することになります。店頭在庫として並ぶことは稀であるため、事前予約が推奨されます。正規販売店ではフィッティングサービスも受けられるため、自分の体格に合ったセッティングで納車してもらうことが可能です。
フレームセット単体での購入については、完成車パッケージとしての販売が基本となりますが、正規販売店に問い合わせることで、フレームセットのみの購入可否を確認できる場合があります。
カスタマイズの自由度については、汎用性の高いDeda製ハンドルを採用しているため、エクステンションの長さや角度、パッド位置の調整は自由に行えます。また、通常のボトルケージ取り付けにも対応しているため、レースと練習で装備を使い分けることも可能です。
まとめ
ウィリエール Turbine SLは、欧州価格€5,900から購入できるトライアスロン・タイムトライアル専用バイクで、2024年後半から2025年モデルとして市場に投入されています。上位モデル「Supersonica SLR」の空力技術を継承しながら、Shimano 105 Di2やMiche製カーボンホイールを標準装備した完成車パッケージとして販売されており、日本国内価格は約90万円台後半〜105万円程度と推測されます。
フレームは同一金型を使用しながらカーボン積層を変更することで、高い空力性能と快適性を両立しています。最大32mmのタイヤクリアランス、79.5度(Mサイズ)という急角度のシートアングル、長めのホイールベースによる直進安定性など、ロングディスタンスのトライアスロンに最適化された設計が特徴です。
トライアスロンバイクの価格高騰が続く中、フラッグシップモデルと同等の金型から生産されたフレームを現実的な価格で入手できるTurbine SLは、エリートアマチュアやエイジグルーパーにとって魅力的な選択肢となります。


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