しまなみ海道でサイクリストのマナー違反が問題に|地元住民の苦情と本音

自転車

しまなみ海道では、サイクリストのマナー違反に対する地元住民からの苦情や声が深刻な問題となっています。「サイクリストの聖地」として世界的に知られるこのルートでは、並走による道路占有、猛スピードでの走行、私有地への無断侵入などのマナー違反が頻発し、静かな島々の暮らしを脅かしています。地元住民からは「ここはレース場ではない」「自分たちの生活道路になぜこれほど多くの他人が入り込むのか」という切実な声が上がっており、観光振興と住民生活の両立という難しい課題に直面しています。

この記事では、しまなみ海道で実際に起きているサイクリストのマナー違反の具体的な事例と、それに対する地元住民の苦情や本音を詳しく解説します。なぜこのような摩擦が生じているのか、その構造的な背景から行政の対策まで、問題の全体像を明らかにしていきます。

しまなみ海道とは

しまなみ海道は、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約60〜70キロメートルの自動車専用道路です。正式名称は西瀬戸自動車道であり、併設された歩行者・自転車専用道によって海峡を自転車で横断できる日本国内でも稀有なルートとなっています。CNNによる「世界で最も素晴らしいサイクリングルート」への選出や、ナショナルサイクルルートへの指定を経て、「サイクリストの聖地」としての国際的なブランドを確立しました。青い海と多島美、そして壮大な橋梁群が織りなす景観は、世界中のサイクリストを魅了しています。

しかし、この美しいルートの裏側では、急速な観光資源化と来訪者の爆発的な増加により、静謐な島々の地域社会に深刻な歪みが生じています。本来、しまなみ海道の建設目的は、度重なる悲惨な海難事故を教訓とした「島民の命と生活を守るための架橋」でした。生活道路としての機能と国際的な観光地としての機能が物理的に重なり合うこの狭い空間において、サイクリストと地域住民の間でマナー違反や文化摩擦、そして「観光公害(オーバーツーリズム)」に類する問題が顕在化しているのです。

しまなみ海道が「生活の道」として建設された歴史的背景

しまなみ海道の構想は、観光振興を第一義として始まったものではありませんでした。その原点は、瀬戸内海特有の潮流と天候によって引き起こされた数々の海難事故にあります。

1945年11月には、伯方島の木浦港沖で「第十東予丸沈没事故」が発生し、死者・行方不明者が397名にのぼる未曾有の大惨事となりました。さらに1957年には「第五北川丸沈没事故」が発生し、113名の命が失われています。これらの事故は、天候や操船技術に左右される海上交通の脆弱さを島民に痛感させました。荒天時には本土へ渡れず、急患の搬送もままならない状況が続いていたのです。島民にとって架橋は、まさに「命綱」を確保するための悲願でした。

当時の資料や架橋運動において「観光」という言葉は二の次であり、主眼はあくまで「島民の移動の自由」や「生活の安定」にありました。つまり、しまなみ海道は住民が安全に暮らすための「生活基盤(インフラ)」として誕生したのであり、外部から人を呼び込むための「レジャー施設」として設計されたわけではなかったのです。

観光地化による意味の変容と住民意識のズレ

1999年の開通後、行政や観光団体は地域の活性化を目指し、自転車通行料金の無料化や大規模なプロモーションを展開しました。これによりサイクリストの数は飛躍的に増加しましたが、それは同時に住民にとっての「生活の場」が、なし崩し的に「観光消費の場」へと変質することを意味しました。

住民にとっての道路は、通勤、通学、通院、そして農作業のための不可欠な動線です。一方、サイクリストにとっての道路は、爽快感や達成感を味わうための「コース」となっています。この認識の根本的なズレが、あらゆるトラブルの根底にあります。住民は「自分たちの生活道路になぜこれほど多くの他人が入り込み、我が物顔で振る舞うのか」という違和感を抱き続けています。

特に、架橋によって以前は存在した航路が廃止され、逆に交通の利便性が低下したと感じている住民層にとっては、観光客の増加は恩恵どころか、生活を脅かす要因として映っているのです。

しまなみ海道で問題となっているサイクリストのマナー違反の実態

地域住民や交通関係者から寄せられる苦情や実際に報告されているトラブルは多岐にわたります。これらは単なる「個人のモラル欠如」にとどまらず、サイクリングブームに伴う利用者層の多様化や、ルールの周知不足、そして「旅の恥はかき捨て」という心理に起因する複合的な問題です。

並走による道路占有の問題

道路交通法上、自転車の並走は原則として禁止されています。しかし、しまなみ海道では友人同士やカップル、あるいはサークル活動のグループが会話を楽しみながら横に広がって走行するケースが後を絶ちません。特に橋梁部へのアプローチ道路や島内の一般道において、車道いっぱいに広がって走行する自転車の集団に対し、地元ドライバーや歩行者から「邪魔である」「危なくて追い越せない」といった苦情が行政に多数寄せられています。

住民からは「サイクリストは自分たちが優先だと思っているのではないか」という厳しい声が上がっており、クラクションを鳴らされても道を譲らない悪質なケースも報告されています。

猛スピードでのダウンヒルと生活道路での暴走

ロードバイクなどの高性能なスポーツ自転車を利用する層や、電動アシスト自転車の性能を過信した初心者によるスピード超過が深刻な問題となっています。特に橋から島へ降りる際の下り坂では、自転車は容易に時速40キロ、50キロ以上のスピードが出ます。

島内の集落内の道路は狭く、見通しが悪い箇所も多いのが特徴です。そこを音もなく猛スピードで駆け抜ける自転車は、散歩中の高齢者や通学中の児童にとって恐怖の対象となっています。「ここはレース場ではない」という住民の怒りの声は切実であり、実際にヒヤリハット事例が頻発しています。

ながら運転と無灯火、イヤホン装着の危険性

スマートフォンの地図アプリを見ながらの「スマホ運転」や、アクションカメラやスマートフォンで風景を動画撮影しながらの走行も散見されます。これらは注意力を著しく散漫にさせる危険な行為です。また、音楽をイヤホンやスピーカーで流しながらの走行も、周囲の音(車の接近音など)を遮断するため極めて危険です。

さらに、夜間の無灯火運転も問題視されています。島内の道路は街灯が少なく、日没後は真っ暗になる場所が多いのが実情です。無灯火の自転車はドライバーから視認できず、重大事故に直結する危険な行為として、運営側も罰金対象であると強く警告しています。

SNS映えを求めた私有地侵入と権利侵害

SNS、特にInstagramの普及により、フォトジェニックな風景を求めるあまり、他者の権利やプライバシーを侵害する行為が深刻化しています。

レモン谷など農地への不法侵入

生口島(広島県尾道市)は国産レモンの発祥地として有名であり、多々羅大橋のたもとに広がる「レモン谷」は人気の撮影スポットとなっています。しかし、ここは観光農園ではなく、個人の農家が所有する生産現場です。

観光客が「レモンと自転車」の構図で良い写真を撮るために、無断で畑の中に立ち入ったり、農作業の支障となる場所に自転車を停めたりする事案が頻発しています。看板などで「立入禁止」が示されている場所であっても、それを無視して侵入するケースがあり、農家にとっては防疫上のリスク(病害虫の持ち込み)や農作物の損傷、枝を折られるといった実害に直結する深刻な問題となっています。

商業施設・私有地での撮影マナー違反

生口島の耕三寺博物館にある「未来心の丘」などでは、白い大理石の景観が人気ですが、ここでもマナー違反が起きています。コスプレ衣装での長時間撮影による場所の占有、商業目的での無断撮影、さらには立入禁止エリアへの侵入などが問題となり、施設側が具体的かつ厳格なマナーガイドラインを公表し、注意喚起を行わざるを得ない状況となっています。

また、補助犬(盲導犬など)を連れたユーザーに対し、「かわいいから」という理由で許可なく至近距離でカメラを向けるといったプライバシー侵害行為も報告されており、行政広報誌で注意が呼びかけられています。

公共交通機関における輪行トラブル

自転車を分解して専用の袋に入れ、鉄道やバスで運ぶ「輪行(りんこう)」においても、一般乗客とのトラブルが発生しています。

しまなみ海道へのアクセス手段として新幹線や在来線が利用されますが、混雑した車内や通路に大きな輪行袋を放置し、車内販売のワゴンや他の乗客の通行を妨げる事例が報告されています。SNS上では、「通路に横たわる大きな荷物」の写真が拡散され、「邪魔だ」「なぜ自転車で新幹線に乗るのか」といった批判が相次いだ事例があります。

サイクリスト側が「鉄道会社の規定(手回り品料金やサイズ)を守っている」と主張しても、一般客からは「混雑時の配慮が足りない」と見なされる認識のギャップが存在します。特に、観光客以外のビジネス客や生活利用者にとっては、大きな荷物は迷惑以外の何物でもない場合があるのです。

しまなみ海道における事故の実態と救急医療への負荷

マナー違反は単なる不快感にとどまらず、実際に重大な事故を引き起こしています。

死亡事故と重傷事故の発生状況

愛媛県警などのデータによれば、しまなみ海道周辺および愛媛県内では自転車が関与する死亡事故が後を絶ちません。特に2025年5月には、自転車関連の死亡事故が相次ぎ、短期間で3名が亡くなるという深刻な事態が発生しました。新居浜市では80歳の男性が、西予市ではトンネル内で76歳の男性が死亡するなど、高齢者が犠牲になるケースが目立っています。

しまなみ海道では、単独での転倒事故が頻発しています。2022年の「サイクリングしまなみ」イベント開催時やその前後において、尾道市瀬戸田町や今治市大浜町の一般道で、転倒による骨折や出血を伴う事故が報告されています。初心者がスポーツ自転車の操作に慣れず、下り坂でスピード制御を誤り、ガードレールに激突したり、カーブを曲がりきれずに路外へ転落したりするケースが多いのです。

救急搬送の困難性

島嶼部という地理的条件は、事故発生時の救命活動に致命的なハンディキャップをもたらします。橋の上や島内の狭隘な農道など、救急車が事故現場の直近まで進入できない場所が数多く存在します。橋梁部での事故はストレッチャーでの移動距離が長くなるなど、搬送に時間を要します。

また、島内の医療資源は極めて限られており、脳外科や高度な処置が必要な重症例の場合、本土(今治市や尾道市)の病院へ搬送する必要があります。ドクターヘリの要請も天候に左右されるため、都市部であれば助かる命が島では助からないリスクがあるのです。

2014年に開催された「サイクリングしまなみ」では、報道ヘリコプターが低空飛行した際のダウンウォッシュ(吹き下ろし風)により、橋の連結部分に設置された重さ10キロ以上の滑り止めマットがめくれ上がり、走行中のサイクリストが激突・転倒するという前代未聞の事故が発生しました。これは大規模イベントにおける運営や報道のリスク管理が、特殊な環境下では予期せぬ事故を招くことを証明した事例であり、住民や参加者に大きな衝撃を与えました。

地元住民の声:苦情と本音

観光振興の美名の下で長らく我慢を強いられてきた住民たちの声は、近年ますます切実さを増しています。

看板への反発と葛藤する住民の心理

マナー違反対策として設置された啓発看板に対し、住民からは複雑な反応が寄せられています。「スピード落とせ」「並走禁止」といった強い口調の看板が林立することに対し、住民懇談会では「ただ注意を呼び掛けるだけでは(サイクリスト側が)怒られているように感じてしまい、逆効果ではないか」「もっと表現を考えたほうがいい」といった意見が出されています。

これは住民側がサイクリストを完全に敵視しているわけではなく、「せっかく来てくれたのだから、お互いに気持ちよく過ごしたい」という「おもてなしの心」と、現実の迷惑行為に対する「怒り」との間で揺れ動いていることを示しています。

しかし同時に、「ハンドサインを出して意思表示をしてほしい」「挨拶をしてほしい」といった、コミュニケーションの欠如に対する不満も根強いのが実情です。かつては島内ですれ違う人々は顔見知りであり、挨拶を交わすのが日常でした。しかし大量のサイクリストが通過する現在、挨拶もなく猛スピードで走り去る「無機質な集団」に対し、住民は人間関係の希薄化と疎外感を感じています。

野犬問題とサイクリストの安全

大三島の上浦町など一部地域では、野犬の群れが出没し住民生活を脅かしている深刻な問題があります。今治市へ寄せられた「市長への手紙」には、「子どもが一人で出歩けない」「いつ噛みつかれるか心配でたまらない」「群れになって行動しており、攻撃的になっている」という悲痛な訴えが記されています。

この問題はサイクリストにとっても無関係ではありません。野犬が自転車を追いかけたり、飛び出してきたりするリスクがあるからです。住民が恐怖に怯える環境下で無防備なサイクリストが走り回る状況は、観光地としての安全管理上の重大な欠陥とも言えます。行政による対策が追いついていない現状が、住民の不信感を増幅させています。

経済的格差への不満と「フリーライド」への憤り

しまなみ海道の橋梁部(自転車歩行者道)は、現在「サイクリングフリー」として自転車の通行料が無料化されている期間が続いており、これがサイクリスト増加の要因となっています。しかし、地元住民が自動車で橋を利用して本土へ買い物や通院に行く際には、依然として高額な通行料金が発生します。

住民からは「私たちは生活のために高い金を払って橋を渡っているのに、観光客はタダで橋を渡って楽しんでいる」という不公平感を訴える声が根強くあります。架橋によるストロー効果で島内の商店が衰退し、買い物客が本土へ流出した結果、島内の経済はむしろ疲弊している側面も指摘されています。

観光の恩恵を受けているのは一部の宿泊施設や飲食店だけであり、一般住民にとっては「物価が上がる」「道が混む」「事故が怖い」というデメリットばかりが目立つ構造になっています。これが「観光公害」として認識される所以です。

外国人観光客増加に伴う文化摩擦

外国人観光客の増加に伴い、ローカルな公共交通機関での混乱も起きています。バスの整理券を取るシステムや料金の支払い方法が分からず、運転手や他の乗客との間でトラブルになるケースがあります。また、英語での案内が不十分なため、住民が身振り手振りで教えざるを得ない状況もあり、善意に頼った対応には限界がきています。

「英語で説明するのに難渋した」「運転手に怒られていて可哀想だったが、時間がかかって迷惑もした」といった声は、受入環境の整備不足が住民に負担を転嫁している実態を浮き彫りにしています。

ブルーラインの功罪と法的限界

しまなみ海道の推奨ルートには、車道の左端に青い線「ブルーライン」が引かれています。これはサイクリストを目的地へ誘導し、ドライバーに注意喚起するための路面標示ですが、法的な効力を持つ「自転車専用レーン」ではありません。

ブルーラインの存在により、一部のサイクリスト(特に外国人や初心者)は「このライン上は自転車の聖域である」「車が避けるべきだ」と誤解し、後方確認をせずに進路変更したり、堂々と車道にはみ出して走行したりする傾向があります。

一方、ドライバーにとっても狭い道路でブルーラインに沿って走る自転車を追い越すことは大きなストレスとなります。特に島の道路は路肩が狭く、対向車がいる場合は追い越しが困難であり、その結果、自転車の後ろに長い渋滞が発生します。これが無理な追い越しを誘発し、接触事故のリスクを高めているのです。

行政によるオーバーツーリズム対策の取り組み

尾道市や今治市は、観光庁の支援事業などを活用し、オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた具体的な取り組みを開始しています。

尾道市の具体的施策

尾道市では、「しまなみ海道エリアにおけるオーバーツーリズム対策事業」として複数の対策を講じています。マナー啓発の多言語化として、外国人にも直感的にわかるピクトグラムを用いた看板やデジタルサイネージの設置を進めています。また、通信機能を備えたスマートゴミ箱(ICTゴミ箱)を設置し、ゴミの溢れを検知して効率的に回収することで、ポイ捨てや景観悪化を防いでいます。

さらに、大きな荷物を持っての移動が公共交通機関の混雑を招くため、宿泊施設間や駅での手荷物配送サービスを強化し、公共空間の占有問題を緩和しようとしています。

愛媛県の「自転車新文化」推進

愛媛県は「自転車新文化」を掲げ、「えひめ自転車グッドマナー宣言」などの啓発活動を行っています。「思いやり」と「ゆずりあい」をキーワードに、歩行者優先やルールの遵守を呼びかけています。また、道路交通法改正に合わせたヘルメット着用の徹底や、保険加入の義務化など、制度面での安全網も強化しています。

サイクルオアシスの取り組み

行政の施策とは別に、住民有志や店舗が協力する「サイクルオアシス」という取り組みがトラブル防止の防波堤として機能しています。農家、ガソリンスタンド、カフェ、寺社などが、休憩スペース、空気入れ、水、トイレを無料で提供するシステムです。

ここでは住民とサイクリストが直接言葉を交わす機会が生まれます。「ただの通過者」ではなく「顔の見える人間」として交流することで、サイクリスト側のマナー意識を自然と向上させ、住民側の警戒心を解く効果が期待されています。「水をもらった恩があるから、ゴミは捨てない」「親切にしてもらったから、挨拶をして走ろう」という心理的な抑制効果は、看板による禁止命令よりも遥かに効果的である場合があるのです。

観光の経済効果は地域に還元されているのか

しまなみ海道の観光客数は増加の一途を辿っていますが、その経済効果は地域全体に波及しているのでしょうか。

尾道市のデータによれば、10年前と比較して観光客数は100万人増加し、消費額も大幅に増加したとされます。しかし、その内訳を見ると、宿泊や高額消費を伴う滞在型観光の割合には依然として課題が残ります。多くのサイクリストは「通過型」であり、コンビニで水と軽食を買うだけで島を通り過ぎてしまうケースも多いのが実情です。

また、広島市などの都市部と比較すると、一人当たりの観光消費額は圧倒的に低く、観光客数の増加がそのまま地域の豊かさに直結していない現状があります。むしろ、観光客対応のためのインフラ維持費、ゴミ処理費、救急出動のコストなど、地域の財政負担(社会的費用)が増大している可能性も否定できません。

「人口流出」や「高齢化」という島嶼部の根本的な課題に対し、サイクルツーリズムが決定的な解決策になり得ているかについては、懐疑的な見方も存在しています。

持続可能な共存に向けた今後の課題

しまなみ海道におけるサイクリストのマナー違反と住民の苦情は、単なる「行儀の悪さ」の問題ではありません。それは急激なグローバル観光地化に対し、地域のインフラ、法整備、そして住民の心理的受容(心のキャパシティ)が追いついていないことによる「構造的な歪み」の発露です。

「サイクリストの聖地」という輝かしいブランドの裏側には、生活を脅かされる住民の忍耐と、現場での小さな摩擦の積み重ねがあります。これを持続可能な形で解決し、未来へつなぐためには、複数の視点に基づいた意識改革と施策が必要です。

まず「シェア・ザ・ロード」の精神を実質化することが重要です。道路はサイクリストの占有物ではなく、地域住民の生活の場であり、車や歩行者、そして時には野犬などの動物とも共有する空間であることを、レンタサイクル貸出時や各種メディアを通じて徹底的に教育する必要があります。単なるルール遵守だけでなく、「お邪魔している」という謙虚な姿勢を醸成することが不可欠です。

次に、住民優先のルール作りとゾーニングの導入が求められます。農地や生活道路への侵入に関しては、デザイン性を考慮しつつも、物理的な柵や明確な境界線(ゾーニング)を設ける必要があります。また、通勤・通学時間帯におけるフェリーの住民優先乗船枠の設定や、混雑エリアを回避するバイパスルートの整備など、住民生活を守るためのハード整備を急ぐべきです。

さらに、地域還元システムの可視化も重要な課題です。観光客から徴収する「協力金」や「宿泊税」などを検討し、それを原資として島内の草刈り、ゴミ処理、救急医療体制の支援、あるいは住民への還元を行うことで、「観光客が来れば来るほど、住民の生活も良くなる」という実感を持てる仕組みを作ることが、心理的な摩擦を解消する鍵となります。

最後に、「量」から「質」への転換が求められています。これ以上の観光客数の量的拡大を追うのではなく、滞在時間を延ばし、地域文化を深く理解し、マナーを守る「質の高い観光客」をターゲットにした戦略への転換が必要です。

しまなみ海道が世界に誇るべき真の「聖地」であり続けるためには、美しい景色や走りやすい道路だけでなく、そこに住む人々がサイクリストを心から歓迎し、共に笑顔になれる環境を取り戻すことこそが、何よりも重要なのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました